第二十四話 24時間、戦えるか?
──Side 烏丸
訓練が始まってから、
今日もアイツは、自分で決めた目標に苦しめられながら鎌を振るう。
対して俺はというと、日の出ている間だけずっと練習して、夜になったら飯を食べて寝るという太古の原住民みてーな生活を一週間送っていた。
そして一週間目。予想だにしない出来事が起きたのだ。
「鎌貸したのお前らかァ……!?」
農業ギルドのゴードンが単身やって突撃してきたのだ。
ビビる俺、仮眠中の武藤、いつのまにか仮面を被ってるホフマン。
三者三様にバラけた俺たちの前にゴードンは更に啖呵を切る。
「いいかァ……!? テメェらはな、俺たちの“予定”を狂わせてるんだよォッ!」
「はっきり言って、最初はそんなお前らを大会に出れねぇ程ボコボコにしてやろうと思ってんだ……。」
「でもよ、振興センターのライチとかいう変な名前の奴が、妙にお前らの事をプッシュしやがるのが気になるんだよ。」
「……何が言いたいんですか?」
「要するにだ……主催直々にご贔屓にされてるテメェらの実力を、俺に見せてみろって話だ! 」
……突然の宣戦布告である。
「正直、死ぬほど疲れてるんでやりたかないんですが……。」
「やります。」
いつのまにか起きていた武藤に、俺は冒険者になる羽目になった時の意趣返しをしてやった。
この時、俺は俺自身にとってかなり最悪な事になると、思いもしていなかった。
むしろ「してやってり。ザマミロ武藤ッ」などと、能天気に考えてしまっていたのだ。
———
冒険者ギルドの庭の近くにある森は基本的に恐ろしい程何も手入れがなされていない。
ボウボウに生い茂るその雑草の大群は、俺たち出場者にとって格好の的である。
「ぁあ……ねむ」
目を擦り大鎌を取り出した武藤。明らかに睡眠不足だ。
「ケッ! そんな体調じゃあ鎌振るのやっとじゃねぇかァ? えぇ? もう一人の茶髪の方が見応えありそうだなァオイ!」
同じ様に俺も鎌を構える。 あいつと違って俺は万全なコンディション。
練習も一週間とはいえ何時間も欠かさず行ってきた。
あの農業ギルドのオッサンにはまだ負けるかもしれねぇが……武藤、悪いけどお前にだけは勝ってやる。
「構えッ!」
審判になってもらったホフマンの野太い声が森に響き渡る。
「うしッ…!」
ライチの言っていた通り、ゴードンは鎌ではない道具を取り出してきた。
鉄製の様な柄と、その先端には円形の刃物が回転する様に取り付けられていた。
それはまるで、電動の芝刈り機を簡素にした様な物だった。
俺も鎌を構えた。武藤の構えを完璧のコピーした構えだ。そして当の武藤も、かなり眠そうだったがホフマンが叫んだ瞬間、瞬時に構えを取る。あんな状態でも直ぐに構えたという事は、完全に体に覚えこませている様だ。
「始めッ!」
ホフマンの掛け声と共に、適当な棒で区切られた区画内の雑草たちを俺たちは一斉に刈り始めた。
「万物に刹那の風よ遍け…
劔に宿れ…天地の如く二分せし力を!
一体となって、力よ震えろ!
「ウォォオオオオオオッ!!」
「……………!」
次々と能力を解放していくゴードンは、凄まじい勢いで刃を回転させ草を刈り続ける。
さすが本業とあってかかなりの速度だ。
だが俺も負けてられない……。特に武藤には! そう思い彼の草刈りを見た瞬間、俺は目を疑った。
「はぁ……オラッ!セイ!セイ!セイ!ヘイ!セイ!」
初めての時には地面を耕していたほどの実力だったのが、かなり正確に、かつ割と早く草を刈り続けていたのだ。
無駄な動きの無い、洗練されて効率化されたスイングフォーム。
一刈り一刈りにおいて無駄なく刈られる大量の草。
片や俺はどうだ?
見様見真似の模倣でしかない、“それっぽいだけ”の動き。
一刈りで刈り切れず何度も鎌を振ってしまう無駄な時間、そして僅かな草。
惨めな気分だった。
「辞めッ!」
結果はゴードンが一番刈れていて、区画内の全ての草が刈れていて、武藤は3/4ほど。そして俺は……
「お前…やりますとか言っておいてそんなザマか。大した事ねぇな。」
「まだあの黒髪の男がマシだったぞ? 」
思い知らされた。自分の努力がちっぽけであった事。自分という存在を過信しすぎた事。そして何より、
俺が負けた事に。
物心付いてから負け知らずだった。親は厳格だったけど裕福ではあった。
小学校の時柔道の大会で優勝したこともあった。高校だと部活はいつもレギュラー、
次期キャプテンは当たり前。勉強も常に成績上位。
武藤とかいう教室の背景みたいな存在に負けるはずが無いと。
無意識のうちに思い込んでいた。
寝ずにやったら体壊すだけだ、勝つなんて余裕だ。そう思い込んでいた。
俺が甘かったんだ。この異世界じゃアイツが正しかったんだ。
それを思い知ったと同時に、ある感情が洪水の様に溢れ出てきた。
屈辱だ。
血肉が湧き全ての感情がそれに支配される。それと同時に活力もモチベーションも、信じられない程湧いて出てくる。
アイツがクラスメイトや、魔法が使える奴らに抱いていた感情は、これか……!
死ぬほど努力してでも打ち砕きたいと、思わせるほどの核弾頭の様な感情。
嘲笑いながら帰っていくゴードン。 そいつを睨みながらを俺は武藤に宣言する。
「武藤……俺は本気で勝ってやる。あんな奴らに、魔法とか使える様な奴らに俺自身の実力で勝ちたいんだ。」
「そうか。そんなに勝ちたいか……じゃあ烏丸、一つ質問していいか?」
値踏みするような視線を俺に向けながら、武藤は問いかけた。
「24時間、戦えるか?」
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