閑話 クオリア侵襲 Side 2-A

杉沢の巨大な不死鳥に圧倒されていたクラスメイトは、すぐ近くを飛び回る”白い鳩”に気づくことすら出来なかった。


まるで存在しなかったかの様に、ソレはただ、パタパタと羽を動かしていた。


烏丸大毅という男が、脱獄によりこの場所から立ち去るまでは。


————


東 薫は目の前の状況を消化するのに手間取っていた。


それも無理もない。何処かに連れていかれた烏丸と武藤がいきなり戻ってきたり、それを追って緑色の大男が現れたり、あまつさえそれを長谷川が吹き飛ばしたり。


そんな現実世界ではまず出会うことのない状況を瞬時に理解できるわけがないのだ。


「何が……何がどうなっているんだ……。」


彼は長谷川の魔法——それが魔法と言うかは知らないが——によって開けられた大穴を見て、困惑を呟く。


僕にもあんなことが出来るのか。 今は居ない老人に付けられた、指先の傷の痛みを感じながら。


彼は不安と期待と、そして恐怖を感じていた。


「…………………」


フと気がつくと、何も鳴き声を発さない双頭の狼がこちらを見つめる。

そう、彼らには余りにも莫大な力と、自分自身を守るボディーガードまで存在しているのだ。


やれ凄い身体能力だの、凄い魔法だの、SSS級ランクだのはしゃいでいるが、恐らく彼等は戦場に行けばすぐに死んだ目をして、そのうち帰りたいの大合唱が起きるだろう。


東はそう考えていた。


————


「そんな悲観すんなって! どうせ敵とか無双してすぐに帰れるっしょ? 」


「……! 心、読まないでくれるか?」


「ごめんごめん、ちょっとだけだし大丈夫だと思って。」


ごめん、嘘ついたわ。正直言うと———手間取っていた。———の所からずっと読んでた。


え?お前誰だよって?ごめんごめん。自己紹介まだだったよね。


俺は木崎 涼介。サッカー部でキャプテン。彼女は当番制笑笑。




……冗談は置いといて、この変な建物に来て俺はとんでもないことに気づいたんだよ。


人の心が読めるんだよ! これって凄い事だよな!


いやー!こりゃ凄いな!異世界?でも女子口説きほ———


“そんなことではしゃぐな。”


「え……?」


え、今の何だ……!? 自分じゃない誰かが考えた“何か”が、俺の脳内に直接入り込む。


東がさっきの仕返しか……!? そう思って彼の方を向いた瞬間、俺は信じられない体験をした。


さっきまで東がそこにいた場所に、男がいた。


黒髪に、首元までボタンを止めた黒いシャツに、これまた真っ黒なズボン。


でもそんなのは些細なものに過ぎない。それよりも彼は明らかに目がのだ。


ホラー映画みたいに全部真っ黒ってわけじゃあない。ちゃんと白眼もある。


でもなぜか不自然に思えてならない。目に光が入ってないっていうか……、

見てたら自分自身が持ってかれそうになる感じ。



いや……ヤバイ、ヤバイヤバイ!


……!!


「ひっ……!」


お前……誰だ…!?


“今はまだ、知らなくて良い。”


や、やめろ!! これ以上はや、えぐ、ぐぎ……!!!……!



“繋がりたく無ければ……私を観るな。”


た……助け……見るのを……見るのをやめ……!


「…い!……ょうぶか……?!」


「ヤメロオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」


「……ッ! あれ……!?」


「おい! 木崎!大丈夫か!?」


見たこともない形相で問いかける東。 気付けばみんな、俺をヤバいやつとして遠巻きに見ていた。


でも、そんな事はどうでも良かった……。


あの男が誰か、俺の脳内にはただその疑問だけがこびりついていたから。



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