第十八話 まず敵を知れ。

「ホントに大会に出るんですか?」


「はい。」


「おい、あんまり安請け合いするなよ!化け猫捕まえたと思ったら今度は草刈りやるってんのかよ!?」


「じゃあお前はやらなくていいよ。別に俺一人でもやれない事はないからな。」


「強制はしない。ホフマンさんと観戦でもしたらいいよ。」


「貴方が参加ですか……ま、するか。」


そう言うと、ライチは懐から出した4つ折りの紙を取り出し広げ、俺の目の前に見せて来た。


「これ、参加用紙なんで名前と職業とか書いといてください。書いたらセンターにすぐ持ってくんで。」


「……分かりました。」


名前、か……。政府中枢に近いアックスの馬鹿親子がロクに脱獄事件を知らないとなると、

勿論他の連中が知っているわけがないだろう。


それに、転移した直後ヴェルメリオの関係者は朝皇一人だけ。ひょっとしたら俺たちが転移した事にすら気付いていない可能性だって有る。


でもだからと言っておっぴろげにやる訳にはいかない。何処で誰が見ているか分からない。



「ジェーン・ビィっと……」


そこで俺は偽名を使う事にした。どうせホフマンが適当な出自を喋ったんだ。本名もそれはそれで不味い。


ジェーン・ビィ。J.B.というイニシャルを適当に捩っただけの偽名だ。


ならJBの元ネタは誰だ?となる。

ジェームズ・ボンド? ジェイソン・ボーン? ジャック・バウアー? それともただ単にJB?

どれも違う……下手に焦らしても面白くない。こういう時ははっきり言ってしまおう。


ジョー・バイデンだ。ま、どうでもいいがな……。


————


「で? どうすんのよ!?」


烏丸の怒声が森に響き渡る。少し高い山の近くにギルドは位置しているが、極端に何もない。この山に声は素早く広がり、山彦すら聞こえるのだ。


『で、どうすんのよ!?』


な?


「心配するな。アテはある。」


「そのアテって何だよ。」


「大鎌だ。」「はぁ?」


「大鎌を使ってダッシュで草を刈るんだよ」


「嘘だろォッ!? お前な、素手とか刃物とか無理って聞いてなかったのか?!」


「そんなのが魔法に通用するわけ無いだろ!?」


「まぁ、心配するな。いいか? イかれた魔法使えるのは基本的にここに来た転移者だけだ。」


「そしてここのネイティブは、恐らくだが大した魔法は使えない。そりゃそうだ。使えるんだったら、わざわざ他の世界から誰か呼ぶ必要も無いからな。」


「だから精々電動の芝刈り機ぐらいのパワーとスピードの魔法だろ。」


「身体強化して草抜きまくる奴も居るんだぞ!?」


「幾らマッチョだからってこんな大会に出るぐらいなんだからどうせ脳味噌筋肉野郎しかいねーですよ。何も考えず只ブチブチ切りまくるだけだろ?」


「ぶ、文武両道タイプもいるかもしれねーだろ。」


「……要するに、まだ敵軍を何も知らないって事か。」「ま…そっすね。」


ホフマンが今度は赤色の変な酒を飲みながら会話に割り入る。


「じゃあお前ら車乗れ。そのでどんな奴らがどんな草刈りやってんのか、この目で見に行ってやろう」


「敵の視察って奴だ。」


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