第十七話 “訪問者”現る
割とすぐにギルドに帰ってきた俺たちだったが、“外出中”のプレートが掛けてあるそのドアの前に一人の男が立っていた。
ホフマンは一人車を降りて彼に接近する。
「……誰だ」
「僕ですよ、ほら、ブラウスです、ライチ・ブラウス。農林振興センター青年部の。この前会ったじゃないですか。」
そう言いながら、彼は額の汗を右手に持っているハンカチで拭う。
「前にも言ったろ?あの変な草刈り大会には出ない。悪いけど他探してくれ。」
「いやぁ、そこを何とか……。小さい大会ですし、覆面で参加するぐらい良いじゃないですか?」
「兎に角駄目なものは駄目だ。帰れ」
「駄目ですか……ん…? 車に乗ってるの、お連れさんですか…?」
「おい、 勝手に車に近づくなッ!」
「初めまして……えっ」
ライチと名乗るその男は断りも無くドアを開け、車内の俺たちの姿を見てギョッとする。
それもそのはず。俺たちの格好はまさに戦場から帰ってきたようなボロボロの衣類を着ていて、俺に至っては血まみれのブレザーを未だに着ていたからだ。(流石にアックスと話す時は脱いだけど)
まあ……俺たちもいきなりドア開けて見てくる変人にギョッとしてしまったが。
「……ども。」
「この方は?」
「家が破産したから、冒険者でも良いから働かせてくれっていきなり転がり込んできたクソガキだよ。」
「ああ、だからボロボロなんですね! 僕てっきり————」
「脱獄でもしたのかと思いましたよ。」
「……ッ」
「まあ…僕個人の予想ですけど。」
「ずいぶん的外れな予想もするもんだな。そんなふざけた事言うために来たのか?」
「そんなわけ無いじゃないですか。僕はただ、貴方に出てもらいたいが為にここに来たんですよ?」
「それに……前も言いましたよね? そんなに出たくないなら、誰か代わりに呼んでくださいって。」
「それが出来ないのは貴方の責任ですよね?」
「あのう……。」
「……ならその大会、僕達が出るってのは如何ですかね?」
「……もう一度言ってもらえます?」
「僕達が!その大会に出るって言ってるんですよ!」
「おい俺たちが大会に出るって聞こえたぜ?」
「どんな大会かすら分からないのに? 困りますよ。」
「じゃあ教えて下さい。何をして、何の目的がある大会なのか。」
「まあ、教えない理由もないか……」
——
「……要するに、どれだけ時間内に草を刈れるかの勝負です。シンプルかつ難しいでしょう?」
大会のルールはこうだ。決められた時間と区間の中で、あらゆる手段を用いて草を刈る。ただそれだけ。
何かを切り裂く魔法でひたすら切り続けても良いし、身体強化の魔法で目にも留まらぬスピードで素早く抜きまくるのも良い。何なら除草剤を撒いて枯らせてもよい。そんな一瞬で枯らせて処理できるような除草剤が有ればの話だが。
素手やその辺の刃物で勝てる訳がない。
「あ、それ以外にも聞きたいことはあるんです。どうしてホフマンさんにしつこく頼んでくるんですか?」
「そりゃ演出ですよ。ただでさえ終わってる職業な冒険者の親玉みたいな方が、大会ですごい活躍するんですよ? ワクワクしません?」
「終わってる……? まぁ、いいか。 そんな凄いんですか?」
「本人に聞いてくださいよ。すぐ近くに居るんだから——」「適当な事言うな、殺すぞ。」
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