第十一話 未明帝國

「そういえば、僕たちこの国以外に2つ国がある事は知ってたんですけど、そいつらってそもそもどんな奴らなんですか?」


真っ黒なコーヒーを啜りながら、烏丸はホフマンに質問する。


「じゃあここから近いジェロニーについて教えてやる。」


ジェロニー帝国。元々は俺たちが今いるこのヴェルメリオと同じように王朝が支配していたが、三十年前に帝国軍がクーデターを起こし、そこから軍事国家へ様変わりしたらしい。


ヴェルメリオは七十年も前からジェロニーと戦いを繰り広げていたが、


一躍国のトップとなった軍の最高司令官兼”総統”である“ジョナサン・K・ベイルは、戦力の増強や新兵器開発を繰り返し敵国の国民もその街も自然も何もかも破壊し、ドアノブ一つ残さないような徹底的な攻撃、焦土と化した領土を奪い取り、文字通り“ゼロから”自分達の国へ作り変えてしまうのだ。


「じゃあこの辺りもやばいんじゃ……」


「いや、大丈夫だ。今のところは。」


土気色の顔をして烏丸はホフマンに問う。


「その作戦はまだジョナサンが総統になって数年間だけ行われた作戦だからな。」


そもそもこの世界は昔から三国志をやっていたわけではない。


俺達が暮らす世界と同じようにかつては様々な国家が世界中に存在したらしい。


今繰り広げられている戦争も、最初は小さな三国で発生した小競り合いに過ぎなかった。


だがその小競り合いは徐々に大きくなって周辺諸国に飛び火し、いつしか幾つもの国が殺し合いを始める、”の世界大戦“へと激化していったのだ。


そんな戦争が続いて四十年。膠着状態にあった戦況を打破するかのように、1本の映像が全世界で公開された。


「どうやって全世界で公開したんですか?」


「”遠離受像紙テレスクリーン“。 ほら、あの白いのだよ。」


そう言うとホフマンは壁にある白い画用紙のような物を指差した。


そこには賛美歌をバックにおそらく実際の戦場映像が絶え間なく映し出されていた。


朗々たる語りと、センセーショナルに敵国への憎悪を煽る二分間が、繰り返し繰り返し垂れ流されていた。


「消さないんですか?」


「消せないんだ。」


ホフマンの濁った目を見るや否や、矢継ぎ早に質問していた烏丸は何故かシンとしてしまう。


「……ッ。 そうですか。」


「……話に戻るか。」


映るはジェロニーの王であるサントス十世。猿轡を噛まされ必死に抵抗する彼の前に、


ブーツをコツコツと鳴らす音と共に、軍服を来た一人の屈強な男が現れ、こう言い放った。


「国民の皆さん。よく観ていてください。我々の行動を」


そしてその直後、サントスの口内に勢い銃のような何かを入れ、それを炸裂させた。


バラのように広がる血液と、そのアクセントのように壁にこびりつく黄色い脳漿。


既に只の死体となった”王“を片手で投げ捨て彼は、こちらを向き直った。


「そしてよく聞いてください。我々の言葉を。」


「私はジョナサン・K・ベイル。我が軍の総司令官です。」


「今から宣言させてもらうのはたった一言。」




「”我々はこれより過去を切り捨てる。“」




あの殺人クーデター生中継が行われたその日の”未明“、ジェロニーの隣国であった中立キース公国は焦土と化した。


周辺を武器で焦土に変え、魔法で生命が生き長らえるような自分達だけの楽園を作る。



そんなことを繰り返しいつしかジェロニーは凄まじい超大国へと変貌していったのだ。

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