第十二話 死の打撃

「ま、あんまり話しても疲れるし今日はこんなもんだ。」


そう言うとホフマンは俺たちに手のひらを向けてきた。


「……何ですかそれ?」


「金」


「えっ金取るんですか?!」


突然の金銭要求。飛んでくる反論にホフマンは淡々と言い返す。


「あのな、ここは孤児院でも何でもないんだよ。ギルド。わかる?冒険者に仕事をよこす施設」


「わざわざ住まわせてやってんだ。食費に追加の魔力代、水道に遠話代に家賃!それに……」


「それに?」


「今の話の受講料。」


「マジで……?!」


転移してから一ミリも考えてなかった「金」の概念が、ここにきて一気に俺たちにのしかかる。


「でもお前らは逃亡犯。金なんて持ってるわけが無いよな?」


「そこでだ」


そう言ってホフマンはどこからとも無く書類の束を、俺たちの目の前にどっさりと載せ、俺たちに見せつけた。


「お前たちには“冒険者”になってもらう。」


「なります」


「待てや!」


「だって金もらえるんだぜ? 臓器売る以外なら俺なんだってできるぞ」


「それはお前だからできるんだよ!それは!!」


「危険なんだぞ?! 死ぬかもしれないような事やるんだぞ?!」


「心配すんな。今日は動物探しだけだ。」


「さぁ、やるのか? それともやるのか?」


「選択肢YESしかねぇじゃねぇかクソッ!!」


「やるよ! やりゃいんだろう?! 分かったよ!!!!! 武藤行くぞッ!」


若干キレ気味でホフマンが出した紙をひったくった烏丸は、そのまま俺を引っ張り強引にギルドの部屋を飛び出してしまった。



とんでもない間違いを犯したことに、気づくことすら出来ないまま。



「ふう、面倒な奴だなアイツ。ただの近所の探しだってんのに。」


「こーんなかわいい子猫一匹で、そこまでビビるかね普通」


そう呟きながらホフマンは依頼の紙の書かれた子猫を眺める。


「ま、いいか………ん? なんで俺この紙持ってんだ? あいつに渡した筈じゃ……」



「あ゜っッッ」



「まさかアイツ……の依頼用紙持って行ったんじゃ…!」


急いで倉庫に向かいホフマンは自家用魔力車に飛び乗り、


“言葉”で車の鍵を解除する。


「————————!!」


「頼むから間に合ってくれよ……!」


——————


「「ぐえぼあええええええええっっっ!!!!」」


その頃、俺たちは真紅の肉球に仲良くぶっ飛ばされていた。


「ヴッ…カハッ!なんなんだよあのバケモン!ネコパンチの域じゃねーだろ!」


背中を木の幹に強打しロクに息も出来ないまま、俺は目の前の化け物、


“怪猫キャスパリーグ”とやらに悪態をつく。


ジェロミーの国境近くの森で、自分の縄張りに入ったものを全てを喰らい尽くすケモノ。


そんなやつに俺たちはなすすべも無くボコボコにされていたのだ。


“今日の餌はどんな味かね〜“、とでも嘲笑うかのように、キャスパリーグは後ろ足で耳を掻く。余裕の仕草だ。


こんなやつと丸腰で戦っても意味がない。あの三つ目の鹿とは訳が違うのだ。


肉食獣じゃ大きさもパワーも狩猟本能も何もかも違う。


そんな奴に勝てるわけがないのだ。


「っ! 烏丸避けろォッ!」


重く風を切る音が鳴った瞬間、烏丸に無言のパンチが迫る。


さっき食らったパンチとは速さもパワーも、素人目だが明らかに強くなっていることが手に取るようにわかった。


”殺して、喰らう”


シンプルにつき、最も自然かつ残虐なその攻撃が烏丸の頭部のすぐそこまで迫る。


もちろん爪は立てられ受けて仕舞えばひとたまりも無い。良くて遺体がバラバラになるだろう。


悪かったら? そんな事想像もしたくもない。


「烏丸アアアアアァァァアアァアッッ!」


必死に烏丸に近づくがもはや遅すぎた。


もうダメかと思ったその瞬間だった。


金属と木材がひしゃげてる音が爆音で炸裂する。


甲高いのか低い音なのかはさっぱりわからないが、烏丸じゃない“何か”が当たったことは確かだ。


背けた目をキャスパリーグに戻すと、そこには車の姿があった。


ホフマンだ!



「乗れクソガキ!死ぬぞ!!!」


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