第八話 冒険者の定義
——Side 烏丸
「……まぁ、こういう事ッす。」
自分のありのままの体験を、俺は目の前の男に話した。
「………そうか……」
その3文字を最後に……自らを“ホフマン”と名乗ったその男は、渋い顔をして黙り込んでしまった。
「しっかし、この世に魔法が使えねー奴がいるなんてな。俺も色んな変な奴見てきたが、正直言ってお前らみたいなのは初めてだよ。」
「で、これからどうすんだ? 要するに国から逃げてきたんだろ?」
余りにも無我夢中で過ごしたせいで全く考えていなかった事を突かれた。
常識も文化も食べ物も国も生き物も何もかも元の世界と違う、“異”常な“世界”。
そんな“異世界”で、俺たちは生きていかなければならないのだ。
「……………わかりません。」
疲労した脳内に、不安の二文字が襲い来る。太平洋のど真ん中で、船から投げ捨てられて放置されているような気分だった。
「だろうな」
緑色の液体をショットグラスのような物で飲みながら、ホフマンは冷静に返した。
「暫く住まわしてやる。お前ら、まだここの事何にも知らないんだろ?」
「酔い潰れた奴寝かす部屋が余ってるからよ、そこ2人で使っとけ」
「……ありがとうございます」
「おう」
———Side 武藤
「何処だ……?」
まず目に入ったのは石造りの天井と、そこにある謎の丸い球体。
「起きたか?」
そして髭面の男が、こちらをジロリと覗いていた。
「オッ…!? ど、どちら様ですか」
「俺はホフマン。お前の足を治して、お連れさんと一緒にここに寝かせた。」
「お前も、まだここの事何も知らないんだろ?」
目鼻立ちがくっきりしていて白人のような顔立ちで、緑の薄い色素の目。
背丈は170cm台で白髪のオールバック。 髭を蓄え酒の匂いを漂わせる壮年の男。
だがその視線には、凡庸な経験をした人間には出せない独特の迫力と色気があった。
「おい、どうした?」
俳優に例えるならば……ホアキン・フェニックスに近い顔立ちと言えるだろう。
「あ……ありがとうございます。」
とにかく助けてもらったんだ、礼を言わなければ。
『借りを作った相手には何が何でもお礼言っとけ。 そうすれば人間関係の面倒事も減る。』
“坊主頭”の教えを、今更思い出してしまう。
「……ん? 足を治した?」
白い毛布を剥いで、急いで右のふくらはぎを見ると、そこには綺麗に治ったふくらはぎがあったのだ。
「まじかよ…ッ」
肌触りも変わらない。手を触れた時感触もある。つまり神経も皮膚も元通りになっているのだ。
皮膚はまだ何とかなるが、神経は違う。
ちぎれた神経を元通りにするのは至難の技だ。 末梢神経系とは神経一本一本が綿密な配線の上で成り立っている。
それを適当に繋げては、まず使い物にならない。
だが現代医療ではその“綿密な配線”を再現し切れないので、取り敢えず繋げるしか無い。
なので感覚を取り戻すには、弛まぬリハビリが必要不可欠なのだ。
が、
俺の右ふくらはぎは喰われる前の状態を完全に再現し、感覚も何も異常がないのだ。
おそらく筋肉も元に戻っているだろう。
「魔法で…治したってことですか。」
「ああ、そうだ。って事は魔法ぐらいは知ってんだな。」
「まぁ…存在ぐらいは」
「それぐらいありゃ十分だ。」
————
「まずは…。そうだな、俺が普段何やって飯食ってるか教えてやる。」
木製のテーブルを囲んで、パサパサのパンを食べながらホフマンは語る。
「いつもは冒険者に仕事回して、客から2割ぐらい金を貰って……夜にゃその冒険者に酒を売ってる」
「こういうのを……ギルドマスターって言うんだ。」
「冒険者ってやっぱり見た事無いとこ行ったり、お宝とか探す感じですか?」
烏丸が若干興奮してホフマンに質問する。
まぁ気持ちはわからないでも無い。映画や小説でしか見ないような「冒険者」が、この世界に実在しているからな。
「いんや?そんな夢ある仕事じゃねーよ」
だがホフマンはそんな烏丸の期待を見事にぶった斬る。
「基本的には何でもやってるが……ま、大抵はスラム街の飲み屋の用心棒だな。あとは浮気調査とか害獣駆除。別れさせ屋に人探し。ざっとこんなもんだ。」
「えっ?冒険するんじゃ無いんですか?」
「冒険してるだろ。どいつもこいつも危険な仕事だ。」
「危“険”を“冒”す、ならず“者”。それで冒険者。」
「ギルドってのはそいつらの組合だな。冒険者以外にも色々あるぞ?医者だったり船乗りだったり、とにかく仕事人の集まりだ。」
「だってよ烏丸、残念だったな(笑)。」
「うっせ!」
——————
夜が更けホフマンはとうに眠り、俺たちは空き部屋の一室にいた。
正直烏丸と同じ…となるとあまりいい気分では無い。
恐らく烏丸も同じような気分だ。
だがそんな事一々気にしていたら禿げてしまう。
適当に寝具を敷いて、俺たちは長い1日を終える事にした。
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