第七話 酔いどれクズ兼ギルドマスター
——Side烏丸
「はっ、はっ」
小刻みにリズムを刻みながら、俺は武藤を背負い走っていた。
とにかく来た道を逆走することしかできない。そもそも何でこんな事になったか、という事すら完全に理解できない。
そもそも、朝目覚めて、顔見知りの人間が烈火のようにブチ切れながら動物を虐待していて、
その本人も足からは出血し、顔やいたるところに痣が出来ている光景を見て
理解しろ、という方が無理な話だ。
その上死にかけていると来たのだから、俺はただこいつを抱えて当ても無く走ることしかできなくなっていた。
「あれ…? どこだここ……!?」
いくら逆走するだけとはいえ、無我夢中で走った道を覚え切れる訳も無く、俺は何処か分からない森の中で途方に暮れてしまっていた。
「どうすんだよ…! こいつ死ぬぞっ…。」
背中越しでも彼の身体が冷えていくのが伝わる。
まずい、まずい。まずい!
ここでこいつを死なせたら俺のせいだ…! 俺のせいで……俺のせいで……!
「おい! 何やってんだ糞ガキ!」
絶望に駆られる中、背後から突然男の、それも中年の声が聞こえる。
すぐに振り向くと、そこには森の中にあまりにも軽装かつ、酒に酔っているのか顔を赤くし足元が覚束ない男が立っていた。
いや、軽装は違うか……最早軽装というより、 上半身裸といった方が正しい。
「ここは…な! 俺の、俺の庭だぞぉ…! ったく………ん……?」
ちゃんと喋れているかも怪しい髭面の彼だったが、目敏く背負われている男の負傷を見つけると、男は突然怒鳴りながら近づいてきた。
「おい…! おいおいおいおいおい! 何だよその足はよッ! ボロボロとかそう言う問題じゃあねぇじゃあねぇかッ!」
そして至近距離まで近づき、俺に臭い息と共に罵声を浴びせた。
「なんで
よく分からない言葉を交えながら、男はひたすら唾を俺に飛ばす。
シンプルに唾が臭かったのは言うまでもない。
「ひ、ヒールぅ?」
「はッ! 何が ひ、ヒールぅ? だコラ! ンなの常識だろッ」
「え…?」
そのヒールとやらをよく知らない。 ヒール? なんだ、靴の下についてるアレか?
「チッ…もういい! “命カミより分け与えんッ!汝、安らぎを覚えよ!
男は更に訳の分からない言葉を叫ぶ。
何をやってんだこいつは……? そんな詩のような文章で怪我が治るなら、
今頃俵万智か、せんだみつを辺りがでかい病院の院長になっているだろう。
「そんなんで治るわけ無いだろッ!! ほら見ろこれっ!」
と、俺は男にその食いちぎられた足を見せようとすると、俺はとんでもないことに気づいた。
「エッ…!?治ってる……!?」
そう、足が治っているのだ。 食い千切られ三日月みたいになっていたあのふくらはぎが、
元の姿を一ミリも欠けることなく復活していた。
「えっ!? えっ!?」
「ケッ、何驚いてんだガキ! こんなの常識だろ!」
「おら、そいつ寄越せ」 「あっ、ちょっと!」
男は唐突に、そして強引に武藤を奪い、何処かへ去ろうとする。
あんなハリウッドザコシショウな体型してる癖に、力だけは万力の様な強さだった。
だが強みは力だけ、ドタドタと走る鈍足の男から、武藤を奪い返そうとしたその瞬間、
「脱兎の如し身軽さと速さ。 “カミよ、我が両脚に授けよ!
またもポエムを発した男は、凄まじいジャンプをかまし、森の木々、いや、枝の節々を道として縦横無尽に駆け巡る。
素早い小動物の比べ物にもならない、下手な軽自動車を超える速度で動く男に、
陸上部だった俺はついていく事しか出来なかった。
「ゼェ、はァーッ! オエッ…! 入った…ってことは、ここが家か…。クソ、早すぎんだろ、ナルトかよアイツ…!」
嘔吐を必死に堪えながら奴を追い、やっとの思いで俺は、男の家にたどり着く。
石造りの小さな戸建の住宅。その前面に辛うじて付いていた看板には、
“冒険者総合派遣組合”と、書かれていた。
———
「ステータスが全部 1 ィ!?」
相手を知るため、家に備え付けられていた”板“で俺の数値を見た男は、困惑と驚きの声を上げた。
それもそうだ。誰だってそんなもの見たら驚く。
身長、体重、年齢、そのあらゆる数値が全て 1 の男を見たら普通「なんだこいつ!?」
と、思うだろう。 この世界の人間にとってはそれだけ異常な数値なのだ。
「それで僕達、別の世界からきたんですよ。んで、その後監獄みたいなとこに連れてかれて————」
とにかく情報を共有しようと男に色々喋ってみたが…
「おう待て待て、いきなりワッと喋るのをやめろ! そんないっぺんに言われても訳分かんねえんだよ! 」
と、文句を言われた為、俺は自分たちの身に起きた事を、順序よく説明していった。
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