第三話 運命の瞬間

ステータスの説明はおおむね次の通りだった。


まず、士名の“士”とは自分に適性がある役割のことで、


身体能力が高く、闘争心に溢れるような人間は“戦士”になり、


状況を見極め、適切な判断を下せる人間は“使令士”に、


仲間の機敏な不調や負傷にいち早く気付くことができる人間は“回復士”、と行った具合だ。


勿論、全員基礎的な魔法や肉弾戦のための格闘術などを学び、13人全てが敵国の兵士を攻撃し、戦闘不能に出来る程の十分な戦力とさせる。


そもそも俺たちは、この世界の通常の人間の数百倍程度の能力を付与されているので、


戦闘は“他のクラスメイト”と戦う、或いは保護するか、一度に大量の敵を倒すぐらいしかないらしい。


そして、魔法と魔力の違いも説明された。


魔法とは、人が持つエネルギーを祈りや呪文など、何らかの手順を踏み

別のエネルギーに変換するもの。


そして魔力とは人間が持つ魔法のエネルギーそのものであり、体力とは別物として扱われる。


そのエネルギーを取り出し電池のような物質にして、人の手を介さずに楽に魔法を発動する事も可能らしい。


最近では魔力の活用の仕方が複雑化し、“魔力機構学“なる学問が……


と、延々と小難しい魔法の説明を受け、俺たちは流石に疲れてしまっていた。


どんなにファンタジーな世界でも、こういう所は元の世界と変わらないんだな。


——————


永遠にも感じた魔法の説明が終わり一旦休憩した後、朝皇はおもちゃをあげる親のように


楽しそうな顔をして語った。


『そして!お前たちをあらゆる面デ補助する使い魔、”保護魔“を授ける』


『さっきまデ小難しい話だっただロうが , 次は楽しクなるぞ。』


『まズは私の保護魔を見テもらおウ。』


そう言った朝皇は、パチンと指を鳴らす。


すると何も無い所から、瞬時にドラゴンのような形をした生物が現れた。


「「おおっ!」」まるで奇術でも目撃したかのように驚くクラスメイトたち。


そんな彼らを冷笑するかのように、ドラゴン(仮)はその黒く重厚な体毛を繕っていた。


『彼は私の事を常に保護していてくれる。君たちの保護魔も同じように働いてくれるだろう。』


全ての“説明”が終わった朝皇は、深く息を吐き、鋭く目つきを変えた。


「雰囲気が変わる」なんてものじゃない、「別人になる」でもまだ足りない。


それはまさに『この世のものとは思えない』と言える程のオーラを、一瞬にして纏ったのだ。


『さて、こレよりステータスを開示する。一度全員でハなく一人ー回。ダいたイ3分に1度のペースで行う。』


“さぁ、運命の瞬間だ。” そう言わんばかりの重く、硬くそして冷たい声を朝皇は発する。


全員が持っていた“板”の上の数字が目まぐるしく動き出し、初めに杉沢の数字が現れた。


そしてそのステータスを確認した朝皇は、小さく笑みをこぼす。


笑みをこぼしたのは後にも前にもこの場面だけで、 それは彼女のステータスがかなり高く、兵士として優秀であることを意味していた。


[名称] 杉沢 百合

[士名] 司令士

[学名] ホモ・サピエンス

[総合戦闘水準] レベル120 ランクSSS

[活動限界体力] 4000

[魔力貯蔵量] 29000

[攻撃力] 5000

[最大耐久力] 2500

[魔法攻撃力] 15000

[突出能力] 動体視力・聴力・痛覚耐久・瞬間記憶・読心・視力・成長


「私、結構高いのね。 まぁこれよりもすごい人も来るかもしれないけど。」


そんな事を言っていた彼女だったが、彼女より高い数値の人間が出てくる気配は今のところない。


何人もステータスが開示されていく中、烏丸は自信満々に俺に宣言をしてきた。


「武藤!わかってるな? ステータスでも俺は負けないッ!いや、俺に勝てない、と言った方が正しいか…?」


ニヤついて俺に早すぎる勝利宣言をする。何故そんな事をするかはわからない。何を根拠にそう言ってるかもわからない。


自信、傲慢、自画自賛。まるで鼻が五光年ぐらい伸びていそうな天狗だ。


だがまあ、こんな性格でもコイツはかなり有能だ。


もしかすると杉沢よりも高いステータスを得ることもあり得る。


有能であればあるほど戦争は有利になり、俺たちは早く帰れるのだ。


「そうなんですか、凄いですね。」


コイツのステータスに期待を込め、俺は褒めたつもりだったが何だか不満そうだ。


「くそ…この暖簾に腕押しクソ野郎が……!」


暖簾に腕押し? 手応えがないとか、張り合いが無いという意味だが、コイツは俺との関係に何を求めているんだ?


ていうかクソ野郎だと?何で俺は毎度こうコイツに罵倒されなきゃならんのだ。


やはりガリ勉というか、普通の陰キャのは難しい……。


よく分からないやり取りを続けているうちに、板には俺の名前が表示される。


烏丸ほどでは無いが、俺もそれなりに勉強しているし、そも昔から勉強は結構好きなタイプだ。ステータスがそれをうまく活用できたら幸いだが…。


まあ、とにかく板を見て判断しよう。


[名称] 武藤 浩市

[士名] 通常兵士

[学名] 普通のホモ・サピエンス

[総合戦闘水準] レベル5 ランクP

[活動限界体力] 20

[魔力貯蔵量] 40

[攻撃力] 20

[最大耐久力] 20

[魔法攻撃力] 50

[突出身体能力] 早飲み



低い……!? 何だこれは!? あまりにも低すぎるぞ。何か能力でカバーしてるかと思ったらそうでは無さそうだし、これじゃあ元の世界と変わらないじゃないか。


ていうか早飲みって……?


「ハーハッハッハッハッッ!!! お前最悪じゃあねぇか! 何だよ兵士って!」


烏丸がステータスを見た途端、勝ち誇った様に捲したてる。


「ざまあねぇな! お前みたいな陰キャは最低な能力がお似合いなんだよ!はははははははは!!」


「一生一気飲みでもしてろ!」


最悪な気分だ。よりにもよってこんな帰還に貢献のしようもないステータスだなんて。


「おっ…俺のもやっと出てきたみてーだな! 武藤!せいぜい俺の最強ぶりをそこでとくと見とけ!」


「朝皇! 広中みたいにでかい板で映してください!」


「アア、わかっタ」


調子のリニアモーターカーに乗った烏丸は満面の笑みでステータスの開示を心待ちにしていた。


そして、ついに彼のステータスが巨大な“板”で大々的に表示された。







[名称] 烏丸 大毅

[学名] ホモ・サピエンス?

[総合戦闘水準] レベル1 ランクZ

[活動限界体力] 1

[魔力貯蔵量] 1

[攻撃力] 1

[最大耐久力] 1

[魔法攻撃力] 1

[身体能力] ふつう


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