第二話 開示

『これより、ステータスの開示を始める。』


巨大な聖堂に一人立ち、朝皇は重く緊張を含んだ声で宣言した。


『まず一人開示し、数値の説明をする。』


それから彼は、俺たちにそのつり上がった目で鋭い視線を送ると、一人の生徒に指を指した。


『そこのお前。そうだ、さっき突撃してきたお前だ。』


ファーストバッターは広中。ステータス自体良く分からなかった俺たちだが、何となく緊張してしまう。


『“示せ”』


何処からともなく大きな板が現れ、数秒の猶予を置いて広中の数値を示す。


その板が現れる様はまるでバラエティ番組の結果発表のようだった。


[名称] 広中 龍太郎

[士名] 戦士

[学名] ホモ・サピエンス

[総合戦闘水準] レベル100 ランクSSS

[活動限界体力] 3200

[魔力貯蔵量] 17800

[攻撃力] 2000

[最大耐久力] 2000

[魔法攻撃力] 5000

[魔法防御力] 4500

[突出身体能力] 動体視力・聴力・痛覚耐久・反射神経


「これがステータスってやつか。」


「なんかずらずら数字で出されても実感ねーな」


頭上に現れた数値を見て当の広中はイマイチピンと来ていない様子だ。


『やはり“力”は朝下軍の兵士の数百倍あル、か。』


『おい広中龍太郎、こっちヲ見ろ』


「えっ?」



言う通りに広中が顔を向いた瞬間、朝皇は彼に向かって、突然全力でナイフを投げつけた。



その勢いは凄まじく、顔に当たるものならば大穴が開いてしまうほどの勢いだ。


ギュンと音を立てながら飛んだナイフを誰も止められる者などいる訳も無く、広中の眼球のすぐそばへと迫っていた。


「うわぁあぁぁっぁッ!?!!??!」


「はぁ!?」 「イヤァァァァァァッ!!」


誰もが目を背け恐怖し、グロテスクな光景を予測した。




「……えっ?」




その結果に、厳密に言えばそのに驚いていたのは他でもない広中自身だった。


なんと彼は朝皇の投げたナイフを、自分の血一滴も流さずに掴み取ることが出来ていたのだ。


このコンマ数秒の世界の話で、だ。


「……すげぇ」


「広中すげぇ!!」「これお前がやったのか!?」


「っうぇ!?!!? 俺すげぇ!!」


まるでドラゴンボールのような超人的な神業に狂喜乱舞するクラスメイトたち。


そんな彼らに朝皇は語りかけ始めた。


『そレは“世界を超えた力”の一端に過ギない。』


『そしてそのカは君タち全員に備わっている!』


『それを使って悪しき国々からこの国を、国民を守ってくれ!!』


『そして洗脳されている君達の仲間を、君たち自身で救い出すんだ!!!』


そう高らかに朝皇が宣言した瞬間、聖堂はいっそう沸き立ち、叫び出す者まで現れた。


演説を終え、熱気が最高潮に達する中、朝皇が素早く手を掲げる。“静かにしてくれ”という合図だ。


その合図を目にした途端、あれだけ熱狂したクラスメイトは糸を離した操り人形のように静かになる。


出会って30分も経ってないというのに、彼はこの12の心を完全に掌握していたのだ。


いきなりこんな訳の分からない場所に連れ回して、あまつさえ一人にはナイフを投げつけたにもかかわらずだ。


あのアドルフ・ヒトラーを思わせるようなその人心掌握術に、俺は内心不信感を抱いていた。


どんな事も、殺戮でさえも正義や使命、そして自身の誇りと言う名のペンキで違和感や罪悪感を塗り潰していく。


うだるような熱狂に、俺はそんな不安を覚えた。












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