試練の紅白戦 後編
第37話 試練の紅白戦 後編 その1
「何で斎藤が受かって俺が落ちたんだよ!!!!
全然納得いかねぇ!!!!」
「悪いが合否に関わる事に関しては一切話せない……
君くらいのレベルならウチにこだわらず他にも良い所がいくらでもあるだろう……今回は残念だったな」
上州学園 外部 中等部専用サッカーグラウンド
小学生時代の姫野がそこにいた。
島崎洋一がコート一面に高く張られたネット越しに何の起伏もなく淡々と言うが、姫野は聞く耳を持たず納得出来ないの一点張りだった。
「何かの間違いだ!!俺より下手くそな……
あんな体がでかいだけが取り柄の奴が受かるなんて……
絶対間違いだ!!一体どこ見てんだよ!!!!」
「……これ以上話してもらちが明かないな、もうそろそろ外させてもらうよ、練習を見ていくのは構わないが……邪魔にならないようにな」
洋一はまったく引き下がろうとしない姫野にやれやれといった表情を見せ、決して居心地の良くないその場を一刻も早く立ち去ろうとしたその時だった。
「……スギケン……約束……絶対に……なのに……」
姫野がうつむいたまま拳を固く握りしめ、小声でブツブツ何か言いだした。
「……ん?何だって?」
洋一は最後に少年の言葉をしっかり聞き取ろうと、ネットの外にいる姫野に片側の耳を近付けた。
『俺は将来Jリーガーになるんだ!!!!
俺を落とした事……絶対後悔させてやる!!!!』
「ぐおおおおおっ!!!!」
洋一は、いきなりの大声に思わず身を捩らせて苦悶の表情を浮かべた。
「監督!!大丈夫ですか!?」
「……あぁ、くそ……耳が……まったく、何て子だ……」
脳まで響く酷い耳鳴りの中、駆け寄った部員達の声にゆっくり目を開けると、姫野が背中を向けて走り去っていくのが見えた。
「Jリーガーか……」
徐々に小さくなっていく姫野の背中に向かって、洋一は乱れた髪を整えながらひっそりと呟いた。
小川颯太……
お前も島崎と同じ
俺には無いものを……
「姫野、お前ともあろうものが……あんなど素人にやられるとはな……ククク」
「……」
姫野の胸中を察した松山がここぞとばかりにいやらしい笑みを浮かべながら言ったが、怒りに燃える姫野の耳には一切届いていなかった。
「松山、お前ちょっとトップやれ……」
「……え!?」
姫野の言葉に虚を衝かれた松山が、キャラ作りもすっかり忘れ思わず真顔で聞き返した。
「……まあ……それはかまわねーが……お前トップ下やんのか?」
「いや、藤波にも一つ上がってもらう、良いよな?」
「……姫野がボラか、見てみたいし……良いよ」
「……くそ、俺がトップじゃねーのかよ」
姫野、松山、藤波の三人のやり取りを横目に、蚊帳の外におかれた勇人がいじけたようにそうこぼした。
「……」
あらあら
勝手にポジションいじって……
まぁ大体感じは分かったし……良いか
「コーチさ……俺らの出番はどーなってんの?もう試合終わりそうなんだけど」
姫野達を遠目に見ながら、しょうがないわね……といって軽く笑みをこぼす百合に、ブスッとした表情で地べたに座る柳井が怒りを滲ませた口調で言った。
隣で大人しく座っていた高木の分まで含めて。
太い眉毛のソース顔
口は悪いがプレーは基本に忠実な慎重派
素直に姫野を尊敬している
パッチリ二重のアイドルフェイス
両足を器用に使ったキープ力、ミドルレンジからの強烈なシュート
彼の見せるプレーには容姿に見合った華がある
それでも性格はやや控え目
うっ!!!!
面白くてすっかり交代のタイミング忘れてた……
「
チームNo.1のテクニシャン 唯一のレフティ
普段から気だるそうな顔つきだが、ここぞという時の突破力、キープ力は他チームからも一目置かれる程
手抜きのボサボサ頭はご愛嬌
「絶対忘れてたろ……」
「そんな事あるわけないじゃないの、まったく!!!!」
痛い所を突いてくる柳井に百合はしれっと嘘を付いた。
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