連携一閃

 俺たちが配置に着いたのを確認して、早速マリーシェは「式鬼」を誘き出す算段を開始した。

 と言っても、それほど難しい事じゃあない。

 姿を式鬼の前に晒すか、飛び道具を用いて式鬼を攻撃すれば良い。その攻撃が当たらなくても、何処からか何かが飛んで来たと勘づかせれば良いだけの話だからな。

 そしてマリーシェは、後者の方法を取るみたいだ。足元にある手頃な石を拾い上げ、狙いを付けていた。

 そして。


「……来るぞ」


 マリーシェは式鬼へ向けて投擲を行い、それは見事に式鬼の身体に当たったんだ。

 その攻撃ともいえない飛礫で、式鬼の意識がマリーシェへと向かう。そして彼女は、大袈裟に姿を現してこっちの方へと走って来た。


「みんな、気を引き締めろよ」


 式鬼が俺たちよりも弱ければ何の問題も無い。だけどもしその強さが俺たちのレベルよりも遥かに上回っていれば、倒すとかどうとかと言う話じゃなくなっちまう。

 でも手の届く……せめてさっきの「オーグル」と同等か少し強い程度なら、今の俺たちでもなんとか倒せる筈だ。

 ただその場合は、館の中にいる術者は俺たちよりもかなり強いという事になっちまう。

 ……なんとも、気の重くなる話だよなぁ。


 戻って来たマリーシェが、一端俺たちの横を駆け抜けてサリシュの元まで辿り着く。そして追い掛けて来た式鬼とまず剣を合わせたのは。


「はああぁぁっ!」


 カミーラだった。

 その剣閃は、決して様子見と言うレベルじゃあない! 正しく、一撃必殺を狙った攻撃だったんだが!


「……くぅっ!」


 その剣撃は、式鬼に軽々と受け止められたんだ!


「ぐぅっ!」


 左腕でその攻撃を防いだ式鬼は、右腕でカミーラへ向けて拳を放ち、俺はそれを盾で防いだんだ……が!

 その余りに重い一撃に、盾越しであるにもかかわらず俺はダメージを受けちまった!

 やはり……レベルが高い! 何て重い攻撃なんだ!

 その打撃は、前に戦った「ヨウ・ムージ」よりも遥かに重みがあったんだ!


「やああぁぁっ!」


 防いだ筈の、たったの一撃にふらつく俺に代わって、マリーシェが斬り込んで来た! それに合わせて、俺はサリシュよりも後退しポーションを呷る。

 でもこんな調子じゃあ、ポーションが幾つあっても足りないな……。まぁ、ポーションなんて腐る程あるんだけど。

 俺は魔法袋から、新たなポーションを取り出して腰袋に入れた。

 式鬼に全員の目が向いている今は、俺の行動に注目する者なんていない。それを踏まえての行動だった。

 そして俺は、「ボデルの実」と「ドゥロの実」、そして「ベロシダの実」を口にしたんだ!

 ただ俺が今更それらの実を口にした処で、この戦いに加わる事は難しいだろう。

 なんせ、すでに実を食べているマリーシェでも牽制ぐらいしか出来ていないし、カミーラもまともに戦えていない。辛うじて渡り合えている程度なんだからな。


「……電光ラドィ・レイ!」


「……ッ!」


 サリシュの魔法を受けて、式鬼が声にならない声を発した……みたいに見えた!

 元々口も喉さえ明確でない式鬼は、喋る事が出来ない。だが式鬼の挙動は、サリシュの攻撃が効いている事の証明だ!

 呪符を介して魔力で活動している式鬼には、魔法が有効という事か!


「……それなら」


 俺は魔法袋から、一振りの剣を取り出した。

 それは、今の俺が装備出来る最高の武器……銀の剣「皇輝」だった!

 銀の剣の素材には、魔力を含んだ「聖銀」が用いられている。

 それだけでも十分に強力な剣が出来るんだが、この「皇輝」は鍛える際にも魔力が込められている。それにより、普通の銀の剣よりも遥かに高い切れ味と、非物質に対しても効果のある攻撃が可能なんだ!

 そして、先ほど俺が取り出した各種の「実」。これもまた、マリーシェ達に渡した物とは少し違う。

 それぞれ特徴を示す色が付いている「実」だが、俺の手にしている「実」は更に濃い色をしていた。

 これは……希少種レア・アイテム

 稀にしか手に入らない、通常よりも高い効果が発揮される「実」なんだ!


「せいっ!」


 その剣と実を使い、俺は近接戦闘に参戦した!


「アレクッ!」


 2人のレベルよりも劣っていた俺では、この戦いには参加出来ないだろうと考えていたんだろう、マリーシェが驚きとも取れる声で俺の名を呼んだ!

 でもそれは、喜びの声にも聞こえたんだ!

 マリーシェとサリシュ、カミーラでは打つ手が無かったんだろう、俺の参戦により攻撃に厚みが増し、それぞれの負担も軽減される。それにより。


「……ッ!?」


「……浅いっ!」


 カミーラの斬撃が、式鬼の左二の腕を斬り付ける!

 残念ながら切断までにはいかなかったけど、初めて有効打と言える攻撃を与える事が出来た! 

 そして、意識がカミーラの方へと向く式鬼に対して!


「せぇいっ!」


 背後から、マリーシェが斬り付ける!


「……ッ!?」


 カミーラへの攻撃を繰り出そうとしていた式鬼だが、その動きは背中のダメージにより強制的に止められ、結果としてカミーラは悠々安全圏へと逃れる事に成功した。

 そして再び、マリーシェへと顔を巡らせた式鬼の油断を付き!


「……んんっ!」


「……ッ!!」


 俺が、式鬼の右足に斬り込み一撃を見舞ってやった!

 ざっくりとした感触が俺の手に流れ込み、奴の脹ら脛ふくらはぎに刃が深く通った事が分かった!

 その衝撃で、式鬼の体勢がガクリと崩れる!


「……火球フェル・ホールッ!」


「……ッ!!!」


 そこへサリシュの魔法が式鬼の顔面を捉え、悲鳴は上がらなくとも式鬼は悶絶している様に見えたんだ!

 やはり、魔法攻撃は奴に効果があるみたいだな!

 しかも、今のサリシュの魔法は常時より強化されている。

 俺の与えた魔術師の杖マジシャン・スタッフ、そして「実」の効果で、実際のレベルよりも魔法攻撃力が上がっている上に、魔法浸透力も向上されていてより効果が表れている! 今の彼女の使う魔法は、それがレベルの低いものであっても奴には有効なんだ!


「マリーシェッ! カミーラッ!」


 だから俺は、


「……分かった!」


「了解した!」


 名前を呼んだだけにも拘らず、2人は俺の意図する処を汲み取り理解してくれていた!

 そしてカミーラが、式鬼の正面に立ち複雑なフェイントを交えて攻撃を仕掛ける!

 式鬼はその動きに翻弄され、彼女の一撃こそ防ぐ事は出来たがその意識は完全にカミーラへと向いており、その他の部分は隙だらけだ!


わきが疎かよっ!」


「こっちもな!」


 崩れた態勢の式鬼に対してマリーシェは左腋を横薙ぎ、そして俺は背面右肩から斬撃を放ったんだ!


「……ッ!!」


 怒りともとれる雰囲気を発して、式鬼は完全に混乱しちまってる!

 個体としてのレベルでいえば、恐らくは式鬼の方が俺たちの誰よりも高いだろう。だが、連携を含むとそのレベル差を詰める事が出来る!

 それは、一朝一夕で出来る様な事じゃあない。そして、俺たちの連携攻撃だって完璧じゃあ無かっただろう。

 でも今この時に関していえば、十分に有効だったんだ!


「サリシュッ!」


 そして俺は、足を止め完全に隙だらけとなった式鬼を見止めて、後方のサリシュへ声を掛けた!


 サリシュの魔法で決定打を出す!


 この方針をマリーシェとカミーラは理解し、実際に行動してくれた!

 そしてそれは、この2人だけじゃあない!


「……炎熱竜巻イサール・シャマ!」


 すでに呪文の詠唱を終えていたサリシュが、俺の合図と共に魔法を式鬼へ放った! 彼女もまた、俺の考えを把握していてくれたらしいな!


「……!!!」


 サリシュが魔法名を高らかに告げるとほとんど同時に、マリーシェとカミーラも大きく退く! ナイスタイミングだ!

 その直後、式鬼の足元から炎が吹き上がり、渦を巻いて奴を呑み込んだんだ!

 その攻撃は、これまでに感じた事の無いほど高い熱量を持っていた!

 恐らくは武器とアイテムの恩恵を受けて、一段高い魔法を使用したんだろう! ……ったく、無茶しやがる。

 式鬼の身体に巻き付く様に渦巻くほむらは、そのまま中の得物を締め付けるが如くその回転速度を上げ終には!

 まるで昇天する様に、一筋の炎の柱を噴き上げて掻き消えた!

 そこに残されていたのは……黒い体を消し炭にした、立ったまま動こうとしない式鬼だった。サリシュが無茶をした甲斐があって、どうやら倒せたみたいだな。


 ……なんて、安心する様な俺たちじゃあない!


「ふっ!」


 俺が動き出そうとした先手を取って、カミーラがすかさず式鬼の胸に刀を埋める!


「……!」


 ビクリと体を震わせた式鬼は、今度こそ……息の根が止まった様だった!

 何故なら。


「……消えてく」


 まるで先ほどの炎で燃やす尽くされた後みたいに、式鬼の身体が灰となって崩れ、そのまま霧散していったからだ。

 とにかく、ここでの式鬼との戦闘は終わった! ……んだが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る