4 最後の戦い
電車を降り、一日数本しかないバスに乗り込む。
この先に進めば人が殆ど住んでいないような限界集落が見えてくる。
そこから歩いて、完全に人のいないような場所へ行き、そこで全部終わらせる。
そう言う算段。
「……この辺でいいか」
そういう算段の元俺が辿り着いたのは、もうずっと誰も訪れていないのだろうと察する事ができる、掲示物が何年も変わっていない事が伺えるボロボロの掲示板。
その隣にあるベンチ。
そこに陣取った。
「……電波は一応届くな」
恐らく電波が飛んでいなくても関係無いのだろうけど、それでも念の為その確認をする。
その確認をしていると、一件ラインにメッセージが飛んできた。
……明人だ。
【今どういう状況なのかわからん以上、電話すれば迷惑かもしれん。これで済ませる】
【全部終わったら連絡をくれ】
そんな俺を心配してくれる言葉。
それに分かったとだけ返信して、スマホをポケットに仕舞った。
将吾には悪いけれど、全部終われば連絡なんてできる状況じゃないと思う。
だから心中でごめんとだけ呟いた。
まさかそんなメッセージを送る訳にはいかないから。
「……さて」
最初のメリーの電話が鳴ったらお面を付けよう。
俺がやる事と言えば、もうそれだけ。
それまでは少し長いけれど待ち時間。
だけど最後に自分の人生を振り返るには十分な長さなのかもしれない。
そうやって色々と考えるけれど、どうしたって強く浮かんでくるのはメリーの存在だ。
それだけ俺の中で大きい存在になっているのだと、改めて思う。
でなければ、こんな所にまで来ていない。
そして彼女の事を思い返していると考える。
もしも違った出会い方をしていれば、こんな所で終わらなかったのではないかと。
この先も幸せな日常が続いていたのではないかと。
だけどそんな考えはどこまでも幻想で。
起こり得る筈が無い妄想で。
俺がメリーを焼き殺したからこそ全てが始まったのだから。
始まってしまったのだから。
だからこそ俺達の幸せな日常がそこにあって。
違う出会い方なんて起きようがない。
だけど……そうだと分かっていても。
そう考えてしまう自分がいる。
違った出会い方をしていれば、なんて話だけではない。
あらゆる願望や希望を持った現実逃避染みた妄想が止まらなくなる。
「……メリー」
気を抜けば全てを台無しにしてしまいそうになる。
何を口走るかも分からないのにメリーに電話をしそうになる。
どこに走っているのかも分からないのに、そこへ逃げ出しそうになってしまう。
メリーに無事復讐を遂げさせる。
その為に自分は此処にいるのに。
簡易的でも、その為に準備して此処にいるのに。
それでも……それでも。
「……」
自分でも感情の波がぐちゃぐちゃになっているのを感じながら、それでもその全てを必死になって抑え込んだ。
当初の予定通り、メリーが俺を気兼ねなく殺せるように。
その為に、まずは自分の意思を殺す。
それが、多分俺にとっての最後の戦いだった。
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