8 風邪
翌日の話である。
「……だっる」
昨日メリーに先を譲ったのが間違いだったとは思わないが、とりあえず昨日濡れたままでしばらく居たせいか思いっきり風邪を引いた。
それも結構重症である。
体温計で測った所、三十九度もあった。
立って歩くとフラフラするような感覚がある。
体も重い。
寝ていたい。
正直その日を迎える前に命を落としそうだと錯覚する位に。
だけどとりあえず。
「と、とりあえずさっさと朝飯だけ作るから……ちょっと待っててくれ」
「いや寝てなきゃだよ将吾! ほら、朝ご飯用のご飯は炊いてあったし、適当にふりかけでも掛けて食べるから!」
「わ、悪い……」
そして半ば無理矢理部屋へと戻されベッドに寝かされる。
「何か食べれそう?」
「……いや、正直食欲ねえ。なんか食べたほうが良いのは分かるけどさ」
「……そっか。とりあえず後で薬局行って薬と……そうだ、ポカリ。ポカリ買ってくるよ」
「……悪い、マジで助かる」
「どういたしまして……何かあったら遠慮無く呼んでよ。飛んでくるからさ」
そう言って彼女は部屋から出ていこうとする。
だけどドアの前で立ち止まってこちらに視線を向けてくる。
「……どうした?」
「あ、いや……このまま行っちゃってもいいのかなーって」
「いや良いだろ……どうした?」
意味の分からない事を言ってくるから思わずそう問いかけると、彼女は苦笑いを浮かべて言う。
「えーっと……私なら一緒にいて欲しいかなって。そう……思って」
そんな事を言ってくる。言ってくれる彼女に対して俺は背を向けるように体制を変える。
「……馬鹿か。風邪うつるぞ」
「多分うつんないと思うよ。私人間じゃないし」
「多分だろ多分。ほら、早く朝飯食って来いよ」
「うん……じゃあまた。いつでも呼んでね。今日バイト休みだし」
そう言って彼女は今度こそ部屋を出ていく。
……そしてそれから、仰向けになり天井を眺めた。
本当に辛い。
頭は痛いし体は重いし喉も痛い。
意識もどこか朦朧だ。
今までインフルエンザに掛かった時でもここまで重症化しなかった。
正直これまでの人生の中で風邪というものを舐め腐っていた。
正直、地獄でしかない。
……地獄でしかないからこそ。そんな時だからこそ。
メリーの掛けてくれた優しさに溺れそうになる。
朦朧とする意識の中で、俺の中の天秤が確かに傾きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます