7 一人戦い続けていた者

 タオルで体を軽く吹き、それからメリーの着替えを取りに行った。

 ……取ってくると流れで言ったがどうしようか。

 勝手に……その、なんだ。

 下着とか用意するの? 俺が?

 我が家の客間……もといメリーの部屋へと、そんな事を考えながら足取りを向けていた所でスマホに着信音が鳴った。

 ……明人だ。


「……どうすっかな」


 この着信に出て、俺は何を答えるべきなのだろうか。

 柿本さんが言っていた俺の友達というのは間違いなく明人の事だろう。

 明らかに今まで何かをやっていたのは、きっと彼のような人に辿り着く為のプロセスだったのだ。

 そして……そうやって辿り着いた結果を、俺は無下にする。

 それなのに……俺はアイツと何を話せばいいのだろうか?

 分からない。

 分からないがそれでも、そういう相手だからこそ無視する訳にはいかなくて。


「もしもし」


 俺はその通話に出る事にした。


『柿本さんに会ったそうだな』


「……ああ、会ったよ」


 俺がそう答えると、一拍空けてから明人は言う。


『今さっき事の顛末を聞いた。止めたのだろう、柿本さんを』


「……悪いな」


 もう、そうとしか言えない。

 そんな事しか言えない俺に明人は言う。


『本当に悪いと思っているなら柿本さんに助けて貰ってほしい。それで全部終わるんだ』


「……悪い」


 本当に、そうとしか言えない。

 だけどそれでこちらの状況をある程度把握してくれたらしい。

 納得のいかない様子ではあった。

 だけどそれでも無理強いをせずに、静かに言ってくれる。


『将吾。お前があの子にどんな感情を抱いているのかはあまり詮索しない。だがな……これだけは言わせてくれ』


 明人は一拍空けてから言う。


『お前もさ……間違いなく被害者なんだ。何も間違った事はしていない。していたとしても燃えるゴミか不燃物か。そういうのを間違えた位だ。それだけなんだ。人としてそれ程おかしくは無い事をしただけなんだ。結局焼き殺すか圧死させるか生き埋めにするか。どうやってもメリーさんは生まれてくる。生まれる宿命だった。だからお前は悪くないんだ。お前には誰かに助けてもらうだけの資格がある……それだけは忘れるな。よく考えて決断しろ』


「……ああ、ありがと」


 そう言って明人との通話を終える。

 ……改めて、自分は幸せ者だと思うよ。

 そう言ってもらえるなんて多分当たり前の事じゃない。

 そこまで誰かが動いてくれるなんて当たり前な訳が無い。

 俺は本当に恵まれている。

 だけど俺に資格があるのなら。

 俺なんかにも与えられる物があるなら。

 メリーにだって。

 きっと俺よりも強くその資格があるんだって、そう思うんだ。

 そう考えていた時、階段を上がってくる音がした。


「……は? ちょ、おい! お前! なんて恰好で歩いてんだ!」


 メリーはバスタオル一枚でここまで歩いてきていた。

 だけどその理由は至極真っ当で。


「いや、だって……着替え出てなかったし。それに……ほら、冷静に考えたら、ちょっと用意してもらうの恥ずかしいし。いや、今も恥ずかしいんだけど……」


「あーうん。ごめん」


「と、とにかくお風呂空いたからさ。風邪引く前にシャワー浴びてよ」


「お、おう」


 俺はとりあえず逃げるように風呂場へと向かった。

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