3 街に馴染んだ都市伝説
そこからの学校での出来事は特に語る必要もない事ばかりだった。
二学期を迎える予定の無い俺には何の意味もない時間がただ流れていく。
最近は毎日がそんな感じだった。
だからようやく一学期が。
実質的に俺の学生生活が終わってくれたと言うべきなのかもしれない。
無駄な事をやっていても、陰鬱な気分を蓄積させるだけだから。
だから少しだけ身軽になった気がした。
「いらっしゃいませーって将吾じゃん」
身軽になった体で学校の帰りに足を運んだのは、メリーのバイト先の喫茶店。
訪れた俺の姿を見ると、彼女の表情がぱっと明るくなる。
それを見るだけで、胸の中に溜まっていた陰鬱な気分が掻き消える。
幸せな気分に浸れるんだ。
「どこか空いてる席、好きに座ってよ。あ、いつものブレンドコーヒーで良かった?」
「じゃあそれで」
「分かった。ちょっと待ってて。マスター、ブレンドコーヒー一つー」
えらくフランクな接客ではあるが、マスター曰くこの店の方針という奴はフレンドリーさに重点を置く事らしく、そういう意味では完璧な接客をしているのではないかと思う。
……結果も出している。
メリーの無意識に人の感情に潜り込んでくるような力と、彼女自身の人柄。
多分それらが影響しているのだと思うが、ここ数か月お客さんが多いそうだ。
それを聞くと改めてメリーには人に愛される才能があるのだろうと思う。
ここ以外でも良い評判は聞くんだ。
聞こえて来るんだ。
それが聞こえて来る位には、ここ数か月という短い時間で彼女は色々な人から愛されている。
そんな女の子を、俺は焼き殺している。
……焼き殺してしまっている。
願わくば、お願いだから、こんな奴に慈悲なんて向けないでほしい。
許さないでほしい。
心置きなく殺してほしい。
そんな事を願いながら、来月俺を殺してくれる筈の女の子がコーヒーを運んできてくれるのをゆっくりと待った。
……そんな事を考えている事だけは、絶対に悟られないように気を付けて。
これまでのように。
その時まで同じように。
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