2 3つの理由
俺が学校に行くのも今日と、この先にある数回の登校日で終わりだ。
正直、勉学に対する意欲は完全に消え失せた。
何しろ頑張った所でもう何の意味も成さないのだから。
成すような状況になる事を避ける為に頭を悩ませているのだから当然だろう。
それでもこうして学校に足を運ぶのは、俺が不登校にでもなって両親が家に顔を見せに来る事を避ける為というのが理由の一つ。
あくまで仕事で帰ってきていないだけで、この状況ではありがた迷惑な訳だが放任主義ではないから、多分そうなればメリーと両親が邂逅する事となる。
今となってはそうなった所でうまく切り抜けられるのだろうと思うけれど、それでも不安要素は無いに越した事はない。
だからそれは避けたい訳だ。
後は……まあ、メリーにも心配を掛けるだろう。
心配をしてくれるだろう。
それも避けたい。
余計な不安を抱えさせたくない。
貴重な時間をそんな事に費やせたくない。
そして……もう一つだけ、理由。これもかなり大きい。
「おはよう、明人」
「ああ、おはよう」
俺が学校に来なくなると、唯一こちらの状況を把握している明人を不安にさせるだろう。
それもまた、させたくなかった。
親友にそういう思いをしてほしくなかったというのと、そして。
不安にさせれば……明人が余計な事をしてくる気がして。
してくれる気がして。
だから俺は大丈夫なのだと思わせる。
どうやったら無事殺してもらえるのかと考えていると悟られないようにする。
……その為に。
「やっと夏休みだな」
「だな……まあ今年の夏休みは良くも悪くも忙しそうだけどな。迎えられたらの話になるけど、九月以降の方が休みって言えるのかもしれん」
それ以降も生きる意志があるのだと。
俺は息を吐くように親友に虚言を吐き続ける。
これからも……最後まで。
「……そういえば、後大体一か月か」
「ああ、このペースだと八月末位になりそうだな」
「あれからどうだ? 良い感じに事は進んでいるのか?」
「まあな。自惚れでしかない気がするけど、うまく行くかもしれない」
うまく行って貰っては困るのだけれど。
「そうか……まあ、そうなってくれればいいがな」
そう言う明人は、今の所俺とメリーの問題に殆ど干渉してくる事は無い。
偶にこうやって近況を聞いてくる位だ。
メリーとの生活を始めた二日目にゲームセンターで会った時に言った事を、ちゃんと守ってくれている。
本当にありがたい……持つべきものは親友だと思う。
だからこそ、その親友にあまり心配は掛けたくないのだ。
そして将吾は言う。
「それでアレか。お前は夏休み、メリーとべったりか」
「まあ今と比較すれば比較的そうなるな。いやぁ、忙しい。まーじで忙しいわ」
「ノロケにしか聞こえんな」
実際の所、半分はそういう感じなのだから、ノロケで間違いない。
可愛い女の子と楽しい生活を送っているのだから、それは間違いない。
「で、明人は夏休みもどっか遠出したりすんのか?」
ここ二か月程、明人の中で何か転機でもあったのかもしれない。
俺が随分と変わったように、明人にも変化が訪れていた。
毎週どこか県外に遠出している。何でも今、バイト代を全てそこにつぎ込んでいるとか。
元々旅行が趣味だったなんて話は聞いた事がなかったし、そもそも高校生が週一ペースでやるような趣味ではないだろうとも思う。
そして遠出した先で何をしているのかも教えてはくれない。
……本当に不可解な変化だ。正直何をしているのかは気掛かりではある。
だけどそこには触れない事にした。踏み込まない事にした。
俺が色々と踏み込まないで欲しい状況に立たされているからこそ、他人の事にあまり深く踏み込んで踏み荒らすような真似はしたくない。
少なくともそれをしないでいてくれている明人にだけは、したくなかった。
明人なりに何かあるのだろう。
「いや、夏休みにする予定は無いな……つい先日、収獲は得られた」
何かあったのだろう。
「……そうか、よかったじゃん」
だから俺の返す言葉はこれでいい。
「ああ、本当によかったよ。頑張った甲斐があった」
きっとこれでいい。
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