2 朝ご飯
着替えて部屋を出てリビングへと足を運ぶと、既に将吾が朝食の支度を終えて皿を並べている。
そしてメリーに気付いた将吾は言った。
「おはようメリー」
「うん、おはよう将吾」
朝、こうして誰かとおはようって言い合えるのは本当に幸せな事だと思う。
そしてこれから美味しいご飯を食べるのだ。
本当に幸せで溢れている。
……分かってる。
きっとこれは本来人形が享受する幸せとは違う。
こういう幸せは人形であった自分が本来享受できるような類いの幸せではない事位は。
今自分は人間のような姿で人間の様な生活を送っているから、人間の様な幸せを噛み締めている。
それは分かっている。
……それでも。
「ほんと絶妙なタイミングで起きてきてくれて助かるよ。じゃあ朝飯にしようぜ」
「うん」
だからといってこの幸せを否定するつもりなんてのはなくて。
これとは違った形で、人形としての幸せを享受できた筈で。
それを奪った名前も顔も知らない誰かは、どうしたって許せないのだと思う。
……例え今の幸せな時間が、その誰かに焼き殺されたから生まれてきている物だとしても。
絶対に許せない。
「……どうした?」
「ううん、何でもないよ」
「そっか……なら良いけど」
そう言った将吾は一拍空けてから、優しい声音で言ってくれる。
「でも何かあったらすぐ言えよ? 立場も境遇も色々と特殊で、何か起きねえほうが不思議な位なんだから。何かあった時に頑張ろうって思える心構え位なら常にしてる」
「……うん、ありがと」
「よし、じゃあ食べようぜ。俺もあんまり時間無いしな」
「そだね。学校に行かないとだし」
「お前は今日バイト何時から?」
「ん? 10時頃から」
そんな些細な会話をしながら席に着き。
「「いただきます」」
将吾の作ってくれた朝食を食べる。
テレビは付いていない。
最初の頃は自分が短い間でもこの世界で生きていく為に、世間の事を最低限勉強しないといけないと思ってニュース番組を頻繁にみていたのだが、それでも最近ではバラエティ番組位しか見なくなった。
一度朝のニュースで火事の映像が流れた事があった。
その時は色々な事がフラッシュバックしてきて、息が荒くなって動けなくなって。
とにかく、とにかく酷い思いをした。
その一件以降、将吾はメリーが居る時にニュース番組を見なくなったし、バラエティ番組でそういうシーンが流れそうになるとすぐにチャンネルを変えるようになった。
……本当に、自分に合わせてくれている将吾には頭が上がらない。
将吾に向ける感情は、好感しかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます