5 全部どこかのクズが悪い

「うわぁ、これは酷い」


 目の前の光景を見て思わずそう呟いた。


「あ、駄目だ……駄目だほんとタイミング合わない!」


「……」


 どうやらメリーの運動神経はガタガタのようで、リズム感も俊敏性も何も無い。

 あまりにも下手くそなダンスを公衆の面前の前で行っている。


 ……いやコイツ、運動神経悪すぎだろ。

 こんな奴が復讐で人を殺そうとしているだなんて、誰が想像できるだろうか?


 ……ありとあらゆる観点から、そういう事とは無縁な感じがする。

 そして本来ならば無縁だった筈だったんだよな。

 どこかのクズがあんな事をしなければ。

 ……ああそうだ。俺はただのクズだ。

 死んでしまった方が良い。


「あーノルマクリア失敗……」


「お前、端から見たらすげえ動きだったぞ?」


「うわっ……ど、どこから見てた?」


「いや、どこから見てようと変わんねえだろ」


「ま、まあ確かにそうかも……アハハ……」


 メリーはそう言って苦笑いを浮かべた後、俺に聞いてくる。


「早かったね」


「まあな。スマホ調子悪くて言えなかったらしい軽い連絡を聞いてただけだからな」


 適当にそう誤魔化して話を変える。

 態々長引かせるような話じゃない。

 メリーに対抗する為の話し合いの事なんて、長引かせるような話じゃない。


「そっか。なんか気を使わせちゃったかなって思った」


「いや、そんな事ねえよ……ってほらお前、早く次の曲選ばねえと勝手に曲決まるぞ」


「あ、ほんとだ……って言ってもどの曲も分かんないんだけど」


 そう言ってメリーは筐体から降りて言う。


「お手本見せてよ」


「仕方ないな。見せてやるよお手本を」


 そう言ってメリーと立ち位置を交代して適当に曲を選ぶ。


「とりあえずこれにすっかな」


「がんばれー」


「おう」


 まあ俺もメリーと同様に、リズム感は全くないのだけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る