4 邪魔が入らないように
その後、購入した衣服の内の一着を身に纏ったメリーと共に必要な日用品の購入を済ませた後、昼食時までの時間潰しにゲームセンターに寄る事にした。
此処のゲームセンターはショッピングモールに併設されている店舗の割には最新式のゲームからコアなファンが付いている物まで取りそろえた穴場で、俺もたまに明人や大森君達と足を運んでいる。
「何かやりたいのとかある?」
「んーそうだね……ってあの人なんか凄いんだけど」
そう言ってメリーが視界を向けた先にあるのは、最新のダンス系の音ゲーだ。
確かに尋常では無い程のキレの良いダンスをしている奴がいる。
「……あれ将吾のお友達じゃないかな」
「ほんとだ」
偶然にもそこに居たのは明人だった。
そして俺達が見付けたタイミングで丁度最後の曲が終わったようで、リザルト画面を一目見た明人はこちらに向かって踵を返す。
「……む。将吾と……確かメリーだったか?」
「よお、奇遇だな明人」
「こんにちはー」
そう言って各々挨拶を交わした所で明人が言う。
「……仲良くデートか。羨ましい限りだな」
どこか茶化すようにそう言う明人。
そう言えば俺とメリーは恋人同士という設定になっていたんだったか。
「まあそういう所だな」
「う、うん……そういう感じ」
少し顔を赤くしてそう言うメリー。
可愛いなコイツ。なんか見てて和む。
そしてそんな俺達を見て、明人も優し気な表情を浮かべていた。
「成程……ならどうやらあまり邪魔しない方が良さそうだな。邪魔者は退散するとしよう」
……目は全く笑っていないのだけれど。
「……っと、その前に。すまないが少しだけ将吾を借りてもいいか? 少し話があるんでな」
明人がメリーに確認を取る。
この状況で、その目を浮かべてする話。
十中八九メリーさんの電話の件だろう。
「あ、うん。いいよ。私はちょっとこれやってみるから」
「ありがとう助かる……さて、彼女さんの許可も取れたしちょっと来い将吾」
「お、おう……じゃあメリー、すぐ戻るから」
「うん、ゆっくりしてきていいよ」
そう言ってくれるメリーを残して、俺達はゲームセンターの外のベンチに陣取る。
そして明人が開口一番に言った言葉がこれだ。
「将吾、お前……楽しんでないか?」
「楽しむって何がだよ」
「デートかと聞いた時、お前は満更でもない表情をしていた。メリーに嫌々話を合わせているような……命を狙われているような感じには見えなかったぞ」
「まあ……そうだな」
その指摘は正しいのだろう。
本当に明人は鋭い奴だ。
大正解。
「実際楽しんでいるからな」
完全に事実だ。
「楽しんでるって……お前、正気か?」
信じられないというような視線と声音で、明人は俺に問い詰めてくる。
それに対して取り乱す事無く俺は答えた。
「まあ、言いたい事は分かるよ。お前がそう思うのは当たり前の事だと思う」
唯一の協力者だった明人がそういう反応をするのは理解できる。
だけどだ。
「だけどお前の指摘通り満更でもなかったのは確かだ。もう、そういう事なんだ。俺はもうメリーを敵だとは思っていないし、敵だなんて思えない。俺は俺に理不尽な目に合わされて焼き殺されたメリーが最後のその時まで幸せでいてくれる事を望んでいるし、一緒にいると俺も楽しい気分になる」
「……ッ」
声にならない声を出す明人。
そんな明人に一つ言っておかなければならない事がある。
「そこでだ明人……お前はやれる事をやるって言ってくれてたけどさ。多分本当に色々と考えてはくれていたんだと思うけどさ……もう、大丈夫だ。俺は大丈夫」
だから。
「だから下手な事はしないでくれ。なるようになる。そういう解決の仕方を目指す事にした。俺はそれが良い」
「……」
明人は暫く黙り込んだ後、複雑な表情を浮かべてからゆっくりと口を開く。
「……そうか」
明人は言いながらゆっくりと立ち上がってそして言う。
「それがお前の決めた答えなら俺は何も文句は言わんよ。とにかく、下手な真似はしない」
「……ありがとな」
相変わらず目は笑っていないけれど、まあそう簡単に切り替えはできないだろう。
だけど納得はしてくれたようだからそれで良かった。
これで明人から妨害が入る事は無いだろう。
そして明人は踵を返す。
「どこ行くんだ?」
「バイトだバイト。元々若干の時間を潰す為に此処に寄ったんだ」
そして明人は去り際に言う。
「将吾」
「どした?」
「ちょっと………頑張ってみる」
どこか……遠い所を見るように。
「お、おう頑張れよバイト」
……何故そんな宣言をされたのか分からない。
イマイチ知らないんだけど、アイツのバイト先ブラックなのか?
だったらこう……転職を促したい所だ。
……俺の命が尽きる前に。
そして明人はショッピングモールの雑踏の中へと消えていく。
そんな明人の姿が見えなくなってから、独り言を呟く。
「……メリーのバイト、良い所が見つかるといいな」
そう考えながら、俺はメリーの元へと戻ることにした。
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