4 与えられる者、奪われる者
それからメリーと今後の事をお互い話し合った。
例えば彼女の衣服が今着ている物しか無いので明日買いに行こうという話。
「いや、でもお金とかないし……」
「とりあえず俺が出しとくよ。衣食住なんとかするって言っちまったしな」
「でも悪いよ……」
「いいから。今着てる服一着って訳にもいかないだろ」
正直な話をすれば、結構キツい話ではある。
今後食費が二人分になる。
それに加えて新たな出費だ。
かなりの痛手。
だけど仕方がない出費として受け入れるしかない。
どうにかするしかない。
そう思いながら話を進めていたのだが、やがて意を決したようにメリーが言う。
「駄目だ……流石にこれ以上は、駄目だよ! なんかもう……良くして貰い過ぎだから」
「いや、そんな事……」
「あるよ。まだ肉まんのお礼もしていないのに住む場所も食べる物まで用意して貰って……それ以上は貰えないよ。ううん、それ以上じゃない。それより前だって将吾に甘えすぎてるんだ」
そう言ったメリーはどこか強い意志を視線に乗せて、俺に言ってくる。
「だから……今は無理だけど、近いうちに返すよ。できれば少し上乗せして」
「返すって……恩返し、みたいな?」
「それもだけど、とりあえずはお金をね。だから……私、アルバイトしようと思う」
その言葉に一瞬別に大丈夫だと言おうとしたが、ギリギリの所で踏み留まった。
確かに至り尽くせり彼女に奉仕する事は、媚を売るという目的の中では最適解なのかもしれない。
だけど強い意志で発せられた言葉を無碍にするような。
そんな意見をぶつけるとなれば話は別な気がして。
それは彼女の意思を踏みにじっているような気がして。
多分それはやってはいけない事のように思えて。
少しだけ迷って、一拍空けて。
それから言葉を紡ぐ。
「それは助かるけど……アルバイトって、お前そんな事に時間使ってていいのかよ」
メリーの最終目標にさえ影響がなければ、肯定してやるべきなのではないかと思った。
「大丈夫。堂々と言える話じゃないけど、私の力ってそんなに強くないから。将吾の友達にやったみたいな事は精々頑張って一日一回しか使えないんだ。一応できる限り毎日頑張るつもりだけど、最初の方のページで犯人に辿り着くような事が無かったら結構時間はあると思うよ」
「そっか。だったら俺は止めねえけど……無理しなくていいからな?」
「うん、無理しない程度に頑張ってみるよ」
そう言ってメリーはやる気に満ち溢れた笑みを浮かべる。
……こういう風に、これからの事は段々と決まっていった。
真面目で謙虚でやる気に満ち溢れたメリーに、いくつかの家事の仕事を奪われる形で。
彼女の意思を自然と尊重しはじめ、抵抗の意思を少しずつ奪われる形で。
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