二章 自我と傀儡
1 口裏合わせ
明人が目を覚ましたのは、メリーとの戦いが始まってすぐの事だった。
「……ッ」
寝かされていた明人から小さな声が上がった。
「……なんだ。なんで俺は眠って……」
と目を擦りながら、こちらの方を……俺とメリーの方を見てきた。
「ん? ……んん? なんだ、何が起きているんだ……? って将吾、誰だその女の子は?」
覚醒していく意識の中で、明人の視界に映る光景は本当に意味不明な物だったのだろう。
「え、ちょっと待て……本当にどういう状況なんだこれ」
「あ、いやーなんて言えばいいのか……」
明人からすれば知らない内に意識を失っていて、そこに至るまでの記憶も残っていなくて、目が覚めたら知らない女の子が部屋にいた訳だ。
その困惑っぷりは理解できる。
だけど理解できても、その相手にうまくこの状況を説明できるかはまた別の話で。
俺もただただ困惑するしかない。
……まさか馬鹿正直にメリーの事を話す訳にもいかないし、した所で明人はさっきまでのような条件が揃いでもしなければ信じてくれないだろうし……どうしたもんか。
と、そこで困惑している俺達を見てメリーが動いて……俺の腕に手を回してきた!?
「しょ、将吾の彼女さんでーす……」
「……は?」
明人の開いた口が閉まらない。
そりゃそうだ。
訳の分からない状況に、更に新しい困惑を上乗せしただけだ。
俺だって困惑している。
「そ、そうだよね、将吾」
そしておそらく本人は自分が何者かを違和感なく取繕えてると思っているが故のキラーパス。
更に混沌とした状況で俺に何を答えろと言うのだろうか。
正解など存在しない気がするが、此処で違うと言ってしまうと、彼女でもないのに彼女と言い張る形になり状況のエキセントリックさが増す気がして。
それにメリー提案の策を拒否するのは、媚を売るという観点で見れば失策だと思うから。
「まあ……そんな感じ」
……とはいえこう答えたところで、突然俺に彼女ができて、しかも友人宅に連れ込んでいるという、とにかく意味の分からない状況である事に変わりはない。
……一体明人はどんな反応をするのだろうか。
碌な反応はしないだろうな。
そう考えながら待つ俺に対し……俺達に対し。明人は笑みを浮かべて言う。
「マジか。お前いつの間に彼女なんてできたんだ? それなのに普段からモテたいだの何だの言ってやがったのか。ふざけた奴だ」
と、そんな言葉を聞いて感じたのは違和感だ。
モテたいだの何だの……そんな事は言った覚えはない。もしかしたら一度位は零した事があるかもしれないが、普段からそういう事を言っていた覚えはない。
……だとすれば間違い無い。
「……正直どうして俺の部屋でこういう事になっているのかは分らんがまあいい。俺は黒沢明人。好きに呼んで貰って構わない」
明人の奴……どういう意図かは分からないが、あえて話を合わせている。
まさかメリーが言った事が間違っていて、本当は記憶が消えていないのか? だけどさっきの困惑した表情は、とても意図して作れそうな物ではなさそうで。
俺が答えを出せないでいる間に、二人の間で話が進んでいく。
「よろしく……ってそうだ。私の自己紹介してなかったね私はメリー」
「ははは、よろしく……で、将吾」
明人は笑顔のままで、だけど僅かに声音を変えて俺に言う。
「ちょっといいか?」
聞きたい事が色々とある。そんな風に。
「あ、ああ」
「ならちょっと外行こう。あ、悪いけどコイツと一対一で話しておかなければならない事があってな。すぐに連れて戻ってくるが、少しコイツを借りていくぞ」
そう言って明人は踵を返す。
「悪い、メリー。そんな訳だから少し待っててくれるか?」
「う、うん。分かった。私の事なんか気にせずごゆっくり」
そう答えたメリーを部屋に残し、俺達は家の外へと出て行った。
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