第2話
もし私が無性生殖をする動物ならば、私は自分の分身を作り出しとっくに死んでいた。忌々しい他力本願、この言葉を使えば今度こそ本当に罰が当たりそう。背が高く成長した向日葵の方が先に枯れる、その姿は滑稽だ。
リズミカルに尻を揺らして歩いても誰かが私の視界に現れれば、私の快楽に似た開放感は終わりを迎える。もし私が感じている自分の文才が幻ならば、私を早急に殺してくださいマリア様。自動販売機だと思って近づいてみてもただの掲示板、灯りだけ煌々と付いていて何も掲示されていない。
児童館のごみ箱には酒の空き缶がたくさん、この世の中は大体そんな感じ。偽造偶像虚像崇拝は幻像。最近私は蜘蛛の巣を見るのが好きだ。光を当てた蜘蛛の巣はきらきらしてこの世の中の夢物語りをひっかける罠の様。
私も昔は純粋だった。現実を知らなければ、自分の本性を知らなければ私は昔のままの自分でいれた。私の中のマリアの言葉だけを信じ、自分が醜いことを自覚せず、自分は毛皮なんぞ着なくても生きていける人間なのだと思い込んでいたかった。
彼が私を好きで私を愛してくれていると感じさせてくれていれば、私は今暗闇を見て自分の居場所は此処なのだ、などと思い涙を流さずに済んだのに。花の蜜の匂いに前頭葉が殺られる。
死ぬのにはいい立地に住んでいるのにも関わらず私は一度も自殺を実行したことがない。学習道具ばかり揃い勉学に励まない私がどんな人間であるか酷く納得できる。
坂を登る時、降りる楽しさを連想する私は生まれつきの屑だ。暗闇の中で目を光らせる野良猫を見つけると仲間を見つけた気分になる。聖書に乗っ取って言えば創造の秩序に従わない私は恥さらしで、あれよあれよと神から見捨てられる。
つま先を空に投げながら歩いていたらマリアのように純潔であれと言われ殴られた昔を思い出し、鳩尾が痛くなってきた。鳩尾がどこにあるか、そんなことは知らない。けれど今痛んでいるのは紛れもなく鳩尾だ、決して下腹部などではない。
空に手をかざし自分の指の太さに、私に呪いをかけたあの人の遺伝子を感じて、自分の手のひらにある生命線の短さに安堵して。私の次の喘ぎ声はマリアのキスによってせき止められると信じている。空を見上げた顔の上で手を組み私は目を瞑った。
私の脳裏に過る涙を流すマリア、その涙は何を意味しているの?私の代わりに泣いているの?それとも私が愚かだから?偉大なる貴方から見たら私は迷える子羊かもしれない、けれど私は迷ってなんかない、一度も迷ったことなどないの。
お願いだから私を憐れんで泣かないで。私の手が震えている、組んだ指が離れない。少し出来た指のささくれですら私は自分が生きていることを実感してしまって、それで安堵した自分が憎くて怖くて五月蠅くて堪らないの。
「知ってる?私の左手の中指には黒子があるんだよ。」
この言葉を言うためだけに私は指に生えてくる煩わしい毛を入念に剃った。最近知った自分の死んだ細胞の居場所を彼に伝えるくだらなさは、名も知らない有名人が離婚したか否かの情報以上だった。
「指が太い。」
ちらっと私の指を見てそう返事をした彼。一体、貴方は私をどうしたいの?愛情が憎しみに変わる速さを貴方は知らないでしょう?何も言えずに私は自分の手を握りしめて布団の中に手をしまった。
彼が愛さないこの指を切り落としたら彼は満足するかもしれないな、そう思い自分の指がなくなった時を想像してみるが、どうやったら全ての指を切れるのか、知能が猿以下の私には分からなかった。強力な刃物で切るとしても、左手の指を全て切ってしまうと右手の指を切る指が残らない。
切って、と可愛らしく彼にお願いしたところで彼は自分の手を汚すようなことはしないだろう。ましてや自分のせいで指を全て切り落とすような、処女より面倒くさい女を彼はもう抱かない。
私の悪い癖は全ての事象を自分の脳内で完結させてしまうことだ。幸せになる女は程よく自分の意思を相手にぶつけられる。私は彼にとって面倒くさくない女でいることだけを考えて生きている。
罪深い私はもう幸せになることなんて望んでいない。輪廻転生なんて端から信じていないが、もし私の魂が何かに生まれ変わるなら無条件に特定の男に愛される女か、虫けらになりたい。今の人生じゃ虫けらが妥当なところだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます