だまされるもの 偽りのお兄ちゃん
たらたらとついていき謎の黒い外車に押し込められた。気付いた時にはなんで?学校じゃん。一日に二度も学校に行くなんて必須のプリントやら道具やら忘れてダッシュした嫌な思い出が蘇るからやめて欲しい。
「えい」
「びゃあ、いきなり耳を引っ張るな」
「ふん、女の人にふらふらついて行って鼻の下伸ばしてる姿は滑稽だと思わないんですか?」
思う。
「ごめんなさい」
「まったく」
許された。
初めて入るお嬢様用の入口からエレベーターへ、そっからクラス階ではなく部室階と教室階の間、メイド達やその他管理者用の事務階のボタンを押した。
「お前ら生徒だったの?」
「はい、一回生です」
「先輩だねお兄ちゃん」
うーんお兄ちゃん、魔法の言葉だ。これを使われたらきっとなんでも頷いてしまうだろう。
ちーんと扉が開きずんずん進む四人、しばらく進み掃除用具が割と適当に置かれている横道に。お嬢様学校でもこういう所は変わんないんだな、ガンガン避けて進み出した。
突き当たりにボロっちい扉が、開ける双子。入ると、なんだここ……漫喫かな?俺の背より高い本棚がびっしりと並んでいて隙間なく漫画が収まっていた。
「なんだよここは」
「見ましたね」
「見ちゃったね」
「見せたんだろが!生きては返さんみたいな目で見るな」
更に奥へ。まだ本棚は続いている、全くこれだけの数どうやって持ってきたんだか。
やっと終点、デスクが二つにモニター二つ、片方のデスクには液タブが置いてあった。
「これだけ見ればわかるでしょ」
「これだけ見ればわかるわね」
いやわかんないス……ただこの本棚の配置的に、いかにも漫画が描ける環境的に、次の言葉は何となくわかるのが悲しかった。
「「私たちと組んで、漫画家になってくれ」」
「バクマンか」
またニッコリ笑いやがる。
「相変わらず百点の返しをくれるね」
「相変わらずオタクの喜ぶ返答を心得てますね」
帰りたい。
「……なんで俺なの?」
「同じオーラを感じたから」
「なんだそれ」
「と言うのは冗談です」
「なんだそれ」
「実はあの頭のおかしい自己紹介で目を付けました」
こいつらもか……
「暫く自分達語りをしてもいいかしら」
なんだよ自分達語りって。
「もう好きにしてくれ」
「実は私達、漫画が好きなんです」
知ってるよ。
「それでそのうち自分達で描いて見ようってなったんだ、あるよね好きな分野を見続けていると自分でもこういうのやって見たいっての」
まあ、否定はしない。
「作画は妹、お話は私が担当して描いていたんですが問題が発生しました」
ほう。
「これがその問題の塊、読んでいいよ」
ドサッと紙の束を渡される、おお。生原稿ってやつだ、感激。生っていい響きだよな。
「では僭越ながら」
「ええ、正直な感想をお願いするわ」
「そちらの彼女さんはジュースでもどーぞ」
「はっ!?いえ私は」
「違うぞ嫁さんだ」
「まあ、手の早いこと」
「貴方はもう黙っててください、違いますただの許嫁です。この人とは何もありません」
「「?????????」」
うーんナチュラルに意味不明な会話だ。さーてほっといて読むか、どれどれ。
ふむふむ話はオリジナルの純愛……エロじゃねーか、これをこの双子が?コイツら相当変態だぜ。………………うん、読んだ。
「つまんね」
「「は?」」
おいコラ正直な感想だろうが、刃物を首に当てるな。
「批判だけなら適当に言える、つまらないならそのつまらない根拠を言って」
えぇ……つまらない漫画の感想をそんなポンポン感想言える訳ないだろ……
「そーだなあ、色々あるけどまず絵がなあ。そこそこ上手いっちゃ上手いけど竿役もヒロインもどっかで見た顔だしそれは百歩譲っていいけどパースが狂ってない?左右反転したら歪むだろこれ、多分一枚絵ばっかで練習したか好きな絵師の模写から入ったかだな。知らんけど。しかも登場人物みんな横向いてるし、なんなんこれ。宗教画?」
妹、絶句。
「あと話も控えめに言ってクソだよ、何が『俺だけを見てろ』だよ。僧侶枠じゃああるまいしこんな男いるかよ、息子が勃つ前に腹が立つわ。あと伏線かなんだか知らないけど読者おいてけぼりの急展開もやめろ、盛り上げようと思ったのか知らんけどつまんないし作者のオナニー見せられてるみたいで吐きそう。話なんて初見の人は把握してないし急にセックス始める二人に共感なんて出来るわけないから」
姉、悶絶。
「あっこれよく見るとタイトルの横に三話って書いてありますよ」
今まで目を逸らしていたミナミもツッコむ。
「ま、マジだ。誰に求められて描いたんだろ?不思議」
「……ちょっと貸して下さい、見たくないですけど。ああやっぱり、題名がなんか怪しいなと思ったけど本編もですね、或る。とか其れは。とか難しい漢字使ってちょっとよくわからないです。何故わざわざ?」
「ああわかる、ルビもふってないから読めないの多いし登場人物の名前も難しい当て字だから寒いし読めないしでめちゃくちゃなんだよな」
気がつくと双子が仲良く倒れていた、嬉しいのかな?
「よござんすか?」
「……まあ多分だいたい合ってる気がします」
「だろうね、レビューも同じような事書いてたしあれは無差別批判じゃない事が証明されちゃったけど……」
ハア、とため息をつく双子。
「レビュー?」
「さっき指摘された通り渋に一、二話を投稿してあるんだ。それはその三作目」
「えっこんな黒歴史開示したの?勇者じゃん」
ぽこんぱこんと両頬を雑誌で叩かれた、おい漫画好きなんじゃないのか大切に扱え。
「ネットの住民は控えめに言ってクソです、批判も気にせず描いていたのですがスレまで立てられて酷評されたので流石に焦りました」
マジ?あとでタイトルで調べたろ。
「で、そのタイミングで庶民のお前があのとんでもない演説と共に現れたんだ。アドバイスをもらうだけのつもりでしばらく様子を伺ってたけどスマブラとやらを流行らせて学園中てんやわんや、それどころじゃなくなっちゃった」
「そして、一段落したのでそろそろ声をかけようとした時期にとらのあなで貴方を見つけました。これがさっきの事です」
「あんな地獄の釜の底の更みたいな所で同人漁ってるなんて期待以上のマニアに違いない、早速問題を出したら見事に全問正解、余計逃がす訳にはいかなくなった」
へーそうなんだー。
「いやいや、あんなん誰でも答えられるだろ。俺は特に何も」
「「それは違うよ(ぞ)!」」
ロンパするな。
「じゃあもう一回質問。とらドラの最初のポエム、あれ全部言える?」
「アニメと原作どっち?」
「……その返しが既に一般人と乖離してるんだ、一般人はとらドラすら知らない。SAOが関の山さ」
「いやいや。も、もう一問お願いします」
「いいですよ、えーと。ラーメン発見伝の芹沢さんのセリフ、ラーメンは本当は何を食わせてるって言った?」
「『情報』だろ、なあクイズになってないぞ」
「「ようこそ!極秘漫画研究会へ!」」
「おい!」
「自覚した方がいい、君はかなりのマイノリティだよ」
「自覚した方がいい、過度な謙遜は期待してる者の心すら折ってしまう」
結論を出せないデータベースみたいな事言っとる。
「わかったわかった、百歩譲って俺が漫画マイスターだとしよう、でも俺が漫画制作に協力するメリットがない」
「あるよ」
「何さ」
「こんなに可愛い双子と仲良くなれる」
俺の前に出てくる女達はどいつもこいつも自意識過剰すぎる、そもそも可愛い娘ならミナミで間に合っている。元プロゲーマーだって見た目はいいし最近ではイノシシお嬢様だって……
「ねぇおねがい、お兄ちゃん♡」
「私たち漫画のおはなしできるおともだちがほしいの、お兄様♡」
「引き受けよう」
「ちょっと!?」
妹ポジ双子美少女って新鮮!!最高だ!!!今まさに新しい風が俺には吹いている!!!!!
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