私、気になります!
「で、まず何からするんだよ」
「当然、私達の漫画力向上を目指して動きます」
「だからさっきあんたが言った欠点をもう一回これに書いて」
紙をペラっと渡される、めんどいなあ。まあ仕方ない乗り掛かったというか押し込められた船である、テキトーに思いついた事を書いて渡す。
「……エジプト壁画クオリティの横顔って言い過ぎじゃない?」
「いやいやよく見てみろって、なんで幸せな初キスシーンが二人とも横向いてんだよ。せめて竿役の顔白塗りにするか男視点にするかしてくれ」
ぐぐぐ、と唸るメロン妹。
「この、『パチンコ雑誌の解説漫画みたいなチープな話の展開』ってどういう事?」
「や、そのまんまだけど。作者がやりたい話がミエミエでそれ以外どうでもいいからすっ飛ばすなり無理やり話の取っ掛り作ってやろうって気が感じる。こっちは面白い話が見たいのであって誰もあんたの脳内展開に興味なんてないから」
むむむ、と頭を抑えるメロン姉。
「一番の疑問なんだけどなんでエロなの?純愛とエロ両立させるってそれなりに難しいぞ、プロでも大概話は急展開だし抜けるならそれでいいけど。これは抜けないから手に負えん」
「いやー、ちょっとセックスさせとけばアホなオッサンユーザーはホイホイ寄ってくるかなと」
「読者を舐めすぎなんだよなぁ、あいつら暇さえあればネットで卑猥な絵漁ってる猛者だぞ?プロが血反吐吐いて十七ないし十八ページに収めてんのに微妙な長さでしかも面白くないエロ漫画なんて絶好のサンドバッグだろ」
「「はあ」」
わかってなさそう。
「まずエロはやめよう!これは決定事項だ!」
「でも男性は乳首が毎ページ見えないと死んでしまう生き物だと快楽天ビーストに」
「マグロかな?そんな生き急いでるわけないだろ、いやまあ何時もイき急いではいるけどさ」
知識が偏りすぎていらっしゃる。
「なんか無いの?他にやりたい題材とか」
「…………」
ないんかい!
「帰るわ」
「ま、待ってください!そうですね、やっぱり恋愛は外したくありませんね」
「おお、おセンチな事で。それで妹は?」
「うーん、可愛い女の子がかければなんでもいいかな」
「さいで、じゃあ決まったな!恋愛物で可愛い女の子が出てくる漫画をまずひたすら読むことだ。こんだけ漫画あるんだからピックアップすりゃすぐだろ」
「「はーい」」
ミナミはあくびをしていた。
「だからなんで寄生獣読み出すんだよ!恋愛物っつったろ!!」
「いやーあるじゃん、本探してる時別の本に意識が行っちゃうこと」
あるある、じゃなくて。
「姉もなんで北斗の拳なんだ、お前は戦いの中に愛を見出したいのか?」
「ああすみません、つい」
想像以上にボヤボヤしていらっしゃる。
「……なあ、俺に質問したような漫画の知識があれば少しはイロハがわかってるようなもんだろ。なんでそれであの出来なんだ?」
「「なんでかな(でしょう)」」
俺に聞くな俺に、まあいいや。
「とりあえず何個かおすすめの本言うからそれ読んでわかんない所はメールで聞いてくれ、はいこれメアド。俺もう帰りたいよ腹減ったし」
「わかりました、わざわざ今日はすみません」
「悪いね、誘拐みたいな事して」
自覚はあったんだ……
帰り道、ミナミが聞いてくる。
「どんな漫画を勧めたんですか?」
「バクマンの読み直し、あと手塚治虫のを何個か」
それでいいだろ多分。
「へぇ」
わかってなさそう、だろうなあこいついつも小説しか読んでないし。でもじゃあなんで聞いてきたんだろ。
「今日は何が食べたいですか?」
「しょうが焼き」
「はーい、じゃあお買い物して帰りましょっか」
「ワーイ、お菓子買ってっていい?」
「二つまでですよ」
オカンか。……にしてもなーんか忘れてる気がするけどまっ、気のせいだな!
「酷いよ!」
「すまん忘れてた」
翌日、学校でトキに叩かれた。いやー思いっきり忘れていたそういや一緒に行ってたっけ。
「なんで急に居なくなったのさ」
「本探してたらゴスロリ双子に捕まって拉致された後この学校の極秘漫画研究会に連れてこられて漫画のアドバイスしろって言われた」
「???」
ですよね。
「大体本当ですよ、捕まったんじゃなくて鼻の下伸ばして誘惑されたのが正しいですけどね」
「そんなんだろうと思った、クロはいつだって性欲で動いているからね。私も昔はその毒牙に何度かかったことか」
「ありもしない過去を吹聴するな」
お昼、お弁当をもしゃりながら話す。
「へー同人誌か、面白そう私も混ぜてくれよ」
「あの二人に聞かなきゃわかんないぞ、それにそんな面白いもんでもないだろ」
「いやいや、学校の部屋を私物化なんて懐かしいじゃないか。あの頃はいやあ楽しかったね」
「まあ否定はしない」
「私は嫌ですよ、あんな土竜の巣みたいなところ」
「でもついてくるんだろ?」
「いつあの娘達に襲い掛かるか分かったものではないですから」
俺ってそんなに信用ないのだろうか。
放課後、トキとミナミを連れ昨日の秘密基地へ。さーて二人ともしっかり勉強してるかなっと。
『もーわんないもーわんないもーわんない』
「いやー今回もチトは可愛かったね姉」
「いえいえ、ユーリのチトを守ろうとする行動や食欲よりも魚の存命を選んだ精神的成長も素晴らしかったわよ妹」
「あはは」「うふふ」
「おい!!!」
「あら、ようこそ」
「ああ、来たねナンバー3」
「なんで?なんで言ったの読んでないの?」
「バクマン途中から説教くさくてきらーい」
「手塚治虫作品あんまり恋が成就しませんよね…」
わかる。両方かなりわかる、手塚治虫すぐヒロイン躊躇なく殺すからなあ。
「もー!面白い漫画描きたいんじゃないのお!?」
「楽して作画する方法ないかなあ」
「お話どこかに落ちてないかしら…」
俺はなんでここにいるんだろう。
「おお、これまた凄いところだね」
「相変わらず埃っぽいですね…」
「え、誰」
「初めまして…ですよね?」
「やあこんにちは、私は芽波良時希。クロの嫁さ、気軽にトキちゃんと呼んでくれ」
「貴方はハーレムでも作ってるのですか?」
「まさかこんな女たらしだとは思わなかったよ」
あーもうめちゃくちゃだよ、深呼吸した後ミナミ以外の頭を近くにあったブラックジャック一巻(愛蔵版)で叩く。
「あのなぁ、俺だって暇じゃないの!」
「そうなんですか?」
「そうは見えないな」
「暇そうだぞ」
「暇そうに見えます」
俺には本当に味方は居ないのかもしれない。
「うるさい。こんな事もあろうかと色々考えて来たからやるぞ、まず妹、お前はとにかく絵の練習だ。俺の推しのエロ同人を何冊か用意したからパクリでもいい、吸収していけ」
「結局エロなんだ」
「クオリティ高いのは髪の毛、光の当たり方、体の見せ方とか体液の表現みたいに参考になる所はいっぱいだ。これをマスターすればエロゲ絵師はおろか連載作家だって夢じゃないぞ」
「へー、頑張る」
気の抜けた返事だなあ。
「で、姉はガンガンアニメを見ていこう。名作と言われるものからクソまでとにかく右から左にだ」
「基本的なところは大体見てますけど」
「話の構成に何も生かされてないのがバレてんだ、どうせ惰性で見てるんだろ。解説も入れてやるから今度は研究する気で見ろ」
「わかりました」
ほんとかよ、まあ信じるしかない。
「ねえクロ、私も何かしたい。一枚噛みたいぞ」
「はあ、じゃあ漫画のデジアシの練習でもしてれば?効果とか背景とかまで手回してたら大変だろうし」
「わーい」
「あの……私も、そのアニメ見てみたいです」
「え?…………ミナミ深夜アニメ見たことある?」
「なんですか深夜アニメって」
「……今まで見たことあるアニメは?」
「ちびまる子ちゃんとサザエさんならありますよ」
なるほど、こんな逸材が現代にまだいるとは。俺色に染めてやろう。
「じゃあ一緒に初心者おすすめの深夜アニメ見るか、もしかしてハマるかもしれないぞ」
「はあ、まあ変なのじゃなければなんでもいいですよ」
にしても珍しい。ミナミの方から首を突っ込みたがるなんて、明日は空からニシンが降るな。まあとにかく色々決まった。
「よーし諸君!特に終着点もない漫画部始動だ!適度に楽しみつつ頑張ろう!もしかしたら夏コミに出たりできるかもしれないぞ!」
おー、とやる気のない掛け声が上がる。なんで俺が一番張り切ってるんだろう、でもちょっと楽しいな。
二週間後、漫研は思ったより自分にとって気安い場所となっていた。昼休みや放課後にふらっと立ち寄れば着いてきたミナミがそこでお茶を入れてくれて、適当なアドバイスを双子にしながらミナミと一緒にアニメを見るのだ。トキはいたりいなかったりするがいる時は妹のデジアシをしたり姉にちょっかいをかけている。
意外だった事が二つある、まず双子の成長速度だ。割と適当な練習法だったが妹はめきめきと画力を伸ばしていきソシャゲのSR立ち絵レベルにまで成長した。姉も試しに書かせたssを読んでみたが、それなりに話としてまとまっているしタダなら読んでもいいかな、といったこれまたウェブ漫画レベルのシナリオライターになっていた。このまま上手く噛み合わせればそれなりの代物ができるのではないだろうか。これまた適当に言った夏コミ参加が現実味を帯びてくる。そしてもう一つの意外なことと言えば……
「ほら、何ぼやぼやしてるんですか。早く昨日の氷菓の続きを見ましょう、十文字事件の真相が私、気になります!」
ミナミが深夜アニメにハマっていた。最初の一週間で初心者にもおすすめの物を、と夏目友人帳を見せたのが大きかった。まさかアニメを見て涙を流すミナミの姿を見れるとは思いもしなかったぞ。いいよな、俺は一期二話の露神の話が好きだ。
次にとらドラを見せたのは冒険かと思ったがこれも当たる。どストレートなボーイミーツガールはミナミには新鮮だったらしく最終話まで一気見していた。あれも後半割とドロドロするんだけど乗り越えて貰えて何より。今は氷菓を見せていて次にけいおん、その次にハルヒでも見せるかといった次第である。へっへっへ、完璧なプランだ。
「おう、いやーミナミが深夜アニメにハマるなんてなあ」
「別にいいじゃないですか、面白いですよ」
恥ずかしげもなく答えるミナミ、あれー?「そっ、そんなことありません!」とかを想像したんだけどな。サブカルには寛容なタチなのかもしれない、まあ普通に最初のエロ同人に口出してたしな。
「喜んでもらえて何より、おーいそっちはどうだあ?」
「ああ、今一枚終わったよ。印刷するね、いやーマトちゃんの画力の成長速度は目を見張るよ本当に」
ういーんと印刷された物を手に取る、メイドさん物か。う、上手い!照れながらも命令に従おうとしているのか、笑顔を見せつつスカートをたくし上げ粘ついた練乳をかけられている絵に思わず勃ちそうになる。これは中々……
「いいな」
「だろう?ここまで上手くなるなんて想像以上だよ、ねえマトちゃん!」
「当然、私に不可能なんて無いもの」
うわードヤ顔だ、今日日こんな事言うやつがいるなんて。
「姉の方はどうだ?なろうに上げた短編の伸びはいい感じか?」
「ええまあ、とりあえずカテゴリ週間一位は取れましたね」
「マジ?」
かちかちとマウスを弄り確認する、おお凄いマジだ。『学園で無口の女王と言われている娘を雨の日助けたら次の日からお弁当を作ってきてくれるようになった件について』が一位を取っている、すごいな。
「やるじゃん」
「当たり前です、私に不可能などありませんよ」
ドヤ顔まで似なくていいのに、まあとにかく喜ばしい事だ。これなら噛み合わせればいい作品が出来上がるだろう。
「よーし二人共成長したな!先生は嬉しいぞ!」
「あなた何かしましたっけ?」
「クロは特になにもしてないよね」
「やかましい、プロデュースしただろが。ガールズはプロデュースがないとシンデレラになれないんだぞ」
「「ガンバリマス」」
やめれ。
「じゃあ一回本気で十六ページの短編を書いてみよう!それで渋じゃなくてツイッターに上げるんだ。そっちの方が生の感想を早く聞けるし情報伝達も早いだろ、ファンネルも稼げて一石二鳥だ」
「「はーい」」
すっかり従順になっちゃって、ヨシヨシそのうちプリコネのエロも書いてもらおう。
「コラ」
「ふひい」
ほっぺたを両方から抓られた、顔に出る癖をそろそろ直さなくては。
メイド物で行く事にしたらしい。ある日身寄りのない十三歳の少女がお屋敷に一人で住んでるおじ様に雇われ、無愛想ながらも優しいおじ様からの愛を受け取り心が少しずつ溶かされていく物語。その第一話だ、まあ某メイド狂いのあの人のパクリである。ちょっと違うけど。
おじ様は喫茶店を営んでおりそれなりに人は来るので大きなお屋敷にまで手が回らない、家事ができる人の募集を張り紙でかけるが年齢指定を忘れていた。朝チャイムに起こされ出ていくとそこにはボロボロな身元不明の少女が、雇ってくれないと行くところがもうないと言われなし崩しに招き入れるまでを描くのが今回の目的である。いいんじゃないか?続きがそれなりに気になるしのんびりほのぼの歳の差モノってのもいい線行ってると思う、いや知らんけど。
OKサインを出したら後は頑張るのは双子だ、姉がガっとネームを描き妹に渡しながら見た目やポーズを相談し合う。なかなかの共同作業に感心するのみですぐこちらはやる事が無くなってしまった。
「ねえクロ、暇ならたまにはゲームでもしないかい?」
余っているモニターをずるずる引いてトキがやってきた、まあいいだろう。
「何すんの?」
「ふっふっふ、コレさ」
さっとパッケージを渡される、ド、ドカポン。最近何故か某戦記物とコラボするあれである。お前ここをBLOOD-Cの教室みたいにしたいのか、誰も幸せにならないぞ。だがしかし、俺はレンレンボ・ブラックバーン、退かない男である、受けて立つ他あるまい。
「いいだろう、泣いても知らんぞ」
「こちらのセリフさ、おーい南眠ちゃんも一緒にやろう」
こっこいつ、生贄を増やしやがった。
「いいですけど、このゲーム私ルール知りませんよ」
「大丈夫大丈夫、ただのすごろくみたいなものだから」
「はあ、じゃあお手柔らかに」
何も言うまい、とりあえず嫌がらせはトキに集中させるのは確定だ。
「あれ、なんですかこれ盗むとかありますけど」
「あーそれ!いやーやめた方がいいんじゃないかな!ハイリスクノーリターンd
「あっ開きました、なんだか強そうな武器ですけどこれどう使うんでしょう」
「トキに向けて使ってみろ、きっと幸せな事が起こるぞ」
「なるほど、試してみましょう」
「南眠ちゃん!?よくない、それはよくない気がするねぇ!?」
「さっきよく分からない悪魔の姿で叩いてきた仕返しです、甘んじて受け入れてください」
うーんやはりミナミの飲み込みの良さは天下一品、略して下品だ。もうこのゲームの楽しみ方を分かっている、手助けは無用というか怖いから手出ししないでおこっと。
「あっすみません、同じマスに」
「えっ?」
お、おい。
「これも運命です、ちょうど貴方の装備欲しかったんですよね」
性根がデビラーと化したミナミに散々暴れられてこの日の漫研活動は終わったのだった。
「オーイ進んでるか?」
それから更に一週間後、いつものメンバーと共に土竜の巣へ。
「力作です、是非確かめてください」
「力作だよ、是非とも感想を聞かせて」
前のように紙の束を渡された。表紙でメイド服を着た少女がこちらを見て微笑んでいる、タイトルは『チャーリー』うーん危ないタイトルだ、ではいざ。
……お、面白い!儚くも健気な少女メイド、無口だが心優しくダンディなおじ様。のんびりした世界観に柔らかくも緻密な作画が刺さっている。これはバズる、バズってしまうぞ。
「ええやん!前の黒歴史より億倍いいぞ、ほらミナミも」
「はい。…………ええ、いいと思いますよ。変な言葉遣いもないですし無難に続きが気になります、この服を貸し与えられたあと一人で鏡の前で回ってスカートをふわっとさせる所は年相応の女の子という表現と可愛らしさ、すこし余裕の出てきた心理描写もできていて素晴らしいですね」
なんかミナミが評論オタクみたいな事言っとる、一体だれがこんな目に合わせたんだ許せない。俺の純粋なミナミが。
「「当然!(です)」」
「よーし、データの方をツイッターにあげよう。それっぽいタグも付けて午後五時あたりであげれば仕事に疲れた社畜が脳死でRTしてくれるだろ多分」
「「はーい」」
渋にあげた経験があるからかアカウントは双子共用のものがすでにあった、あの黒歴史と混同されるのが怖いが汚名返上って事になれば話題性もでるだろ。でるよね?
「じゃあ後は反応待ちだな、ヒマだしまたゲームでもすんか」
「いいね、だけどもうドカポンは懲り懲りだ。もっと華やかのをしよう」
「桃鉄かしら」
「桃鉄だね」
なんでここには友情を粉々にするようなゲームしかないんだろう。
「五人だしどこかでペアを組もう、まあここは双子ちゃんか私とクロで」
「おいミナミ、一緒にやるぞ」
「はい、これもやった事ないですけど」
「会社買うときはお前に任せるぞ」
「はあ」
「相変わらず仲がいいね」
「相変わらず仲がよろしいことで」
「さーて期間は三年でいいか、おいトキ何変な顔でこっち見てんだ。邪魔だからはよスペース作れ」
「」
なんか言え。
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