「「またれよ」」

 やって来ましたとらのあな。オタクの住処、掃き溜めの拠り所、社会的マイノリティ最後の戦場である。


「ついたぞ」

「うーん相変わらず似たような面子しかいないね、こうはなるまいとつくづく安心するよ」


 性根がゴミすぎる、こうはなるまいとつくづく思う。


「……なんか変わった本屋さんですね?」

「おっそうだな、さあ行くぞ行くぞ」


 てくてくと三人で入店、独特の紙の匂い、そして自重しないド派手な床広告がお出迎えだ、そういうとこやぞ日本のHENTAI共。


「さーて俺はプリコネの同人でも探すか、前来た時はメイン三人の純愛物が殆どで界隈も探り探りな感じがしてたからな」


「おっいいねえ、私サレンちゃんが好きなんだ。水着本があったら是非入手したい」

「は?それは水着バージョン引けなかった俺へのあてつけか?」

「え?まさか持ってないやつおりゅ?」


 もう終わりだ。こういう奴がガチャで経済を回していると言うのだろう、こうはなるまい。


 たんたんたんと階段を上がり二階へ、階段には今放送しているアニメのポスターがそこかしこに貼られていて一つのお化け屋敷のようだ、これが毎クール張り替えられているのだから感心する。


「あの、ちょっとここ怖いんですけど……」

「怖くないよ、怖いのは店じゃなくて店に来てる客の将来だけだからね!」

「はっはあ」


 ミナミがきょろきょろしながら二階に着く、うーん見てくれは何とか保とうとしている一階と違ってここはもう混沌だ。アウトなのかセーフなのか解らないドエロポスターや抱き枕カバー、謎の音声作品CDにフィギュアが跋扈していた。やっぱりこの空気感たまんないな。


「じゃあ私最初はあっちからざっと見てくから、くれぐれもついてこないように」

「おう、お前も俺の心の奥底の趣味に触れるんじゃないぞ」

「がってんだ」


 戦士の顔になり女性向けの某鬼を刃で滅する漫画のコーナーに向かって行った。さてこちらも行かねば無作法というもの……


「ミナミもどっか一人で見てくるか?一階なら一般誌もあるしギリギリ平気だと思うけど」

「いっいえ、ついて行きます。でもお願いですからあまり過激なところに行かないでください」


 おお、初めて見る顔だ。露骨に怯えというか困惑というか現実を知らさせた刺突地雷兵のような顔をしている。しかもなんと服の袖をちょんと掴んできた、一体誰だ!こんな可哀想なめに合わせている奴は!


「じゃあとりあえず端から」

「ハイ」


 別にそんなに怯える程じゃないと思うのだが。チェックの服率九割の極端に痩せてるか太ってるかしてる客が独り言を呟きながら闊歩してるだけだ、平和平和。




 少しずつ横に動きながら棚を吟味していく、うーむ新刊に関わらず人気のあるタイトルはさすがに数が多い。さっきの鬼モノ、艦隊をこれくしょんする海外艦モノ、英霊を従え主人公は後ろで応援するだけのソシャゲモノが鉄板だ。お目当てのプリコネは中々ない、世知辛いなあ。ん?なんか奥に変わった服の奴らが…



 ……でも姉、ここの乳首は影を落としすぎじゃない?初めての性描写なのにこれじゃあ肩透かしもいい所だよ」


「いいえ妹、不意に見えたシチュの場合これくらいがいいのよ。こうすればいざセックスの時やカラー絵になった時にギャップでシコリティが増すでしょう?」


 ……俺史上過去最大級で地雷センサーが拒否反応を示している、なんだあのゴスロリ連中は。両方そっくりな美人だが双子か?……いけないわクロウ。彼女らに見つかったら間違いなく面倒が増えるわよ、直ぐに逃げなさい。


 了解だぜマイマザー、速やかに撤退だ。あんなローゼンメイデンに出てきそうなやべー女は無視に限る。まずはミナミを通路の外に……





「「動くな」」


 スネークかよ。気づけば右目にペン、左目にカッターを突きつけられていた。ああもう!だから早く逃げればよかったのに!ミナミもすごい顔で硬直している。


「な、なんでしょう……」

「ねえ、こいつ良さげだよ姉」

「ええそうね、良さげだわ妹」


 なんか勝手に話が進んでいる、怖いよぉ〜


「ねえ、」

「ハッハイ」

「今から私たちの質問に答えて貰えるかしら?」


 「断ったらどうなるんですか?」とでも言ったらさくっとやられるんだろうなあ。ノータイムで


「喜んで!」


 だ。


「じゃあ私から、まんがタイムきららMAXとフォワードの違いは?」


 は?いきなりなんだその質問、そんなの当然答えられる。一般教養じゃないか。


「…MAXは本誌、キャラットとの大きな違いはない。強いて言えば新人や変わった切り口の作品がMAXに行きやすい、フォワードは全く別だ。ストーリーがしっかり作られていてシリアスな場面も少なくない、これが違いだ」


 あってるよな?そうだと言ってくれ。


「……じゃあ次は私ね。実は私、ぼく勉では第一話からずっと先生派なの。どう思うかしら?」


 さっきっからなんなんだ、しかもさっきと違って明確な答えがある訳でも……いや。


「それはおかしいぞ、先生は一話から出てないはずだ」


 答えると双子(仮)はニッコリと笑った、怖ぇよ。


「じゃあまた私!『私漫画オタクなんだよね〜!』とか言っちゃうメスに何読んでるの?って聞いたらドヤ顔でワンピースって言ってくるけどもう一つは?」


 んなもん人によるに……


「…進撃の巨人」

「ふふっ、次は私。僕の心のヤバいやつ、いいですよね。七話のねるねるねるねソーダ味を作って食べる山田さんと市川は可愛かったわね」

「いいや、山田が食べてたのはぶどう味だ、あと市川はトッピングのザラメしか貰っていない」


 さっきっからなんだ、小学生でも答えられるような問題ばっかり寄越しやがって。双子は顔を見合わせ拘束をといた、そして離れて言った。


「「ヘイ女、極秘漫画研究会。試験合格おめでとう!!」」


 始まったな、色々と。


「私、甜瓜舞兎。双子の妹」

「私、甜瓜紅栖と申します。双子の姉です」

「はあ、どうも。俺は恋恋b「「知ってます(る)」」あっそう……」


 なんでよ。


「なんで知ってんの?」

「あんなまともじゃない演説をしておいてそれはないでしょ」

「あんなまともじゃない自己紹介しておいてよく言いますね」


 ああ……あれか、中々いい催しだったと思う。あれが分からないなんてこいつらきっとまともじゃない。


「それでなんだよ、メロン姉妹は俺になんの用があって拘束してんだ」

「だから言ったじゃん、ヘイ女の漫研メンバーにご招待だって」

「だから言ったではないですか、貴方は今日から漫研メンバーですと」


 うえーんもう帰りたーい!きーてなーい!同じこと繰り返すなー!


「なるほど、ではさらば!おい帰るぞミナミ」


 ミナミの手を握る、何気に初…いや。爪切ってたわそういや。とにかく握り階段へ……道を塞がれた。


「「待たれよ」」


 ハウルか。いや言ったのはマルクルだけど。うましかてを。

「なんなんすか!こんなごく一般ピーポーを捕まえて!俺の体ならどうとでもしていいから早く返してくれ!」


 ?中々変なことを言った気がする。混乱しているらしい、そりゃそうだゴスロリ双子に凶器当てられて意味不明な質問をされれば誰でもこうなる。おれはこうなった。


「わかりました、ちゃんと順を追って説明します」

「だから私たちについてきてくれない?お願いお兄ちゃん♡」

「いいぞ」

「えええ!?」


 なんだよ。

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