「本音」
「優勝は…ええ、恋恋慕蠱毒苦郎様……」
マイクを持った司会お嬢様が俺の優勝を告げる。
「いぇいいぇーい!皆さーん!ドーモ応援アリガトー!これが私の、笑顔です!!」
拍手喝采、のはずがまばらにぺちぺちと聞こえるだけである。いや隣のトキしかしているようにしか見えない、おかしい何かがおかしい。
「では解散です。今日はお疲れ様でした」
「えっ」
そっ、そんなマイルドな終わり方でいいのか。もっと俺を崇め奉りクロウ様クロウ様と赤月みゅうとのハーレム物みたいな扱いを受けられるんじゃないのか。話と違うぞ。
「おいトキ何だこの塩対応は話と違うぞ、それともこれからくんずほぐれつ酒池肉林の準備に行ったと言うのか」
「一体何の話を聞いてたんだいクロは」
ああ、お嬢様が冷たい目をしながらエレベーターで帰ったりデスクを引っ張り出し死合に興じている。なんなんだこれは。
「お疲れ様でした時希さん、くろうさん」
ミナミがステージの下からとことこ歩いてくる、やっぱりお前は最高だ。本当の愛はここにあった、お嬢様に性の獣のような目線で見られたがのけものはいなかったんだな。てか今名前で、
「オイミナミ話と違うじゃないか、花束とレイを持った可愛いお嬢様が俺を祝福してくれるんじゃないのか」
「何の話を聞いていたんですか?それになんで避けられてるかは自分の言動をよく思い出して下さいよこのけだもの」
言っている意味がわからない、俺はただ決められたルールの範囲で決められた勝利条件を満たしたまでよ。
「まあまあクロ、私がいるじゃないか。ほら褒めてあげるよ慰めてあげるよ、キミの全てを肯定してあげるからこの胸に飛び込んでおいで」
「お前そんなキャラだったっけ?それにそれパッドじゃんふざけんなよ、俺の純情を弄びやがってこのなんちゃって鞠也が。飛び込んだって肯定するのは布のかたまりじゃねえか」
「そういう所だと思いますよ」
「いいんだ南眠ちゃん、クロはただ今は混乱してるだけなんだから。ほらおいで君を理解しているのは私だけだよこの世界に私以外に君を解ってくれる人なんて居ないんだよ?」
ああ、そ、そうなのか。そうかもしれない。そんな気はしてたんだ、水泳の時は盗撮して写真を男子間で売りさばき売上で水着を買い『これがキミの体の値段だ』と言いながらプレゼントしたと言われ音楽の時は盗まれたリコーダーの犯人だと疑われる。後者は冤罪だというのに酷い言われようだった。にも関わらず中学時代セクハラ発言をしてもどさくさで二の腕触ってもそして今日胸(?)を揉んでもトキは許してくれた。やはりこの俺を理解してくれるのはトキしか居ないのだ、筆下ろししてもらうのも時間の問題だろう。
「ああそうか。トキ、やっぱりお前しかーー」
涙を流し、今差し出された手を……
「さっ帰りますよ、一応お祝いにおうちで手巻き寿司の準備とローストビーフが作ってありますから」
「わーい!ミナミはやっぱり最高だぜ!納豆巻き作ってー!」
「あっおいこら、わっ私も行きたい…」
「ええで、いいよな?」
「まあ、材料は足りると思いますけど」
「じゃあ帰ろ帰ろ、帰ってささやかにハーレム築くとするかね」
「やったあうれしいな、クロと一緒にご飯。…ところで南眠ちゃんとはどういう関係なんだい?」
「俺の嫁だ」
「またすぐくだらない冗談を」
「はい、まあその予定です」
「「そうなの!?」」
「なんで貴方も驚いてるんですか……」
知らなかった、まだ俺はこいつと手すら繋いでないのに。
「一体いつの間にお前を攻略してしまったんだ、俺の魅力が恐ろしいな」
「そうだよこんな頭のおかしな生き物に「オイ」惚れるなんておかしいよ、そんなの気が触れたか相当な物好きかだ」
「でもお前中学の時大会の後俺に告白しようとしてたじゃん」
「なっ何故それを」
えっカマかけただけなんだけど。
「まあいいや、それで俺のどこに惚れたんだよ言ってみ?ホラホラ言ってみ?」
「うるさいです、それに惚れてません。家に来た初日に言ったじゃないですか家の都合で許嫁にされて来たって」
「初耳」
「その時貴方あの悪趣味なゲームやってて全然聞いてなかったじゃないですか」
「何やってたんだい?」
「これ」
スマホを出しプリコネを起動。
「あっそれ私もやってるぞ、ほら見てくれこれが私の七つの根源の一部だ」
トキに近づき(待ち受けが昔あなでエロ同人吟味してる時のだった)スマホを見る、プレイヤー名の『プリンセスですわw』を確かめ殺意を覚えた、一つくらい破壊しても復活するらしいからいいかな?
「ほーん、まあそれはいいや。つまりミナミは一生俺の嫁ってことでOK?」
「まあ、このまま何事もなければ。不服ですけど」
ま、マジかあ……
「で、でも最近は別にものすごい嫌と言う訳では無くなって来ました…?よ?」
オイ間を置くな間を。
「は?こちとら何年も前からクロと付き合ってんねんぽっと出の発情したメスがいい気になってんとちゃうぞ」
「お前こそ何言ってんだ?ほらもう帰るぞ、多分明日にはここの存在がバレてるだろうから言い訳も考えないとな」
「そうかなぁ教師も意外とぼやぼやしてるしすっとぼけとけば大丈夫じゃないかなあ」
確かに。モニター引っ張り出して遊んでる時も手出ししてこなかったしもしや俺は何やら触れてはいけないパンドラの箱なのかもしれない。
家でささやかにミナミのごちそうを三人で食べ終わるとトキがスマブラを引っ張り出して来た。
「さあ再戦だ。確かに結果は負けだが私はアレを負けだなどと認めない」
「えーやだよ。勝てるわけないじゃん俺は美少女に現実以外でサンドバックにされる趣味はないんだよ」
「相変わらずドクズだね、いいからはようはよう。さもないと南眠ちゃんに中学時代密かに惚れてた先輩に割と真面目なラブレター渡したのにそのまま2ちゃんに晒された挙句ネタコピペとして一時浸透したのをばらすよ」
「ひっ」
「全部聞こえてますけど」
「やめてくれ、それは俺の人生における唯一の恥部なんだ」
「恥部の塊が服着て歩いてる癖に何言ってるんですか」
「わかったわかった、やるからちょっとは手を抜いてくれよ」
「私は勝負事では手を抜かないタチだ」
「かっこい」
そんなこんなで夜遅くまでスマブラに興じた。バーサクモードになり俺をボコり続けるト
キをなんとかなだめ寝かしつけ、自分も布団に入る時には二時だった。やれやれと目を閉じる。ああ今日はとんでもない一日だった、あんなとんでもない奴に絡まれなし崩しに大会なんぞに出てあまつさえ最後はらしくないセリフまで吐いてしまった。もう疲れたよミナミッシュ。だから、
「楽しかったな……」
ふと出た言葉も、疲れのせいに決まっているのだ。
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