とっておきの湯沸かし器

「結局一日ゲームだけして終わりましたね、貴方授業中ずっと寝てましたし。周りの娘も遠巻きに見てるだけでしたし」


 電話ボックスから出、ぽてぽてと裏路地を歩く。


「こっち見てるってことは興味はあるってことだろ、作戦は今のところ大性交だ」

「怖がってるだけに見えましたけど…」

「もう〜もっと俺を信じろって、ゲームは世界を繋ぎみんなをあったかくするとっておきの湯沸かし器なんだぞ。お前だって結構楽しんでた癖に」


 まさか台パン属性持ちとは思わなかった、とんだ掘り出し物である。


「意味がわかりません、それに楽しんでないです!あんな野蛮な遊び……帰ったら練習に付き合って貰いますからね」


 お前ツンデレは流石に属性過多だぞ。


「ハイハイ楽しんでもらえて何より、それより今日はハンバーグが食べたいな〜」

「負けっぱなしが悔しいだけです!あんなもの知識と経験の集大成が画面に表示されるだけじゃないですか全く、あれに人生賭ける人の気がしれません」「オイ」


 迷子かな?とサービスカウンターのお姉さんに聞かれた高校三年生のロリみたいな怒り方をしている。


 足を早めさっさと行ってしまった。確かあっちはお肉屋さんの方向、あいつマジでいい女だな。我慢できずに今晩アクエリオンしてしまうかもしれない。



 パンの耳をつなぎに使ったケチャップソースの合い挽きハンバーグをぺろり、した後日課のプリコネをしているとスイッチが画面に繋がれコントローラーが置いてあった、いつの間に接続まで覚えたんだ。


「さぁ」


 うっ、勝負師の顔をしている。そんなにハマったか。




「空中回避は1回しか出来ないし位置をずらせるとはいえ移動入力すると後隙がでかすぎるから暴れとして使うのは愚策だぞ」

「覚えました」

「あっ今またスマッシュ振ったろ、お前ちょっとでも隙が出来たからって50%にも行ってないのにぶっぱする癖やめた方がいいぞ。当たらなかった時のデメリットも大きいし想像してるほど稼ぎもよくない。まあガノンならワンチャンあるけど」

「覚えました」

「ジャスガなんて狙うな狙うな、前作と違ってそれなりに難しいから初心者には早すぎる。素直にベタ出ししとけ」

「覚えました」


 オボエマシタロボと化した戦闘狂に適当なアドバイスをしつつ連戦する、こいつ口だけじゃなく教えた事は覚えるからラウンドを重ねる度に強くなる。末恐ろしさを感じつつ連勝するうちそれは起こる。70%から迂闊に懐に入りすぎたか、甘い横回避で後ろを取った所に上スマが入る、軽いベヨだ。しっかりとバースト線まで出て落とされた。ふ、不覚……


「ふふふ…」


 こいつこんな顔出来るのか…落ちぬ日はなく月もなし、とくと我が策御覧じろとでも言いそうな性格の悪い笑みを浮かべていた、教育と性癖に悪いので最初で最後にしてもらい早々に敗北者になってもらおう。なあ、兄上?


 本気の3割ほどを出し捻ったあとまた修羅のオーラを纏ったので風呂に退散した、一人でトレモに篭っている。ひょっとしたら沼に引きずり込んでしまったのかもしれないわ、わたくし、まあこわいこわい。




 二日、三日と学校家問わずスマブラに明け暮れた。四日目には周りのお嬢様は増えに増え他のクラスからも押し寄せてくる始末。


 メイドさんに腰をいわすまで頼み込み教師に無断で特大モニターを入手する。金曜日の昼にはこれでプレイし、ちょっとした鑑賞会のようだなと思っていたがお嬢様は誰も口を開かず楽しむと言うよりはむしろ研究しているかのような目つきだった、怖いよキミ達。


 モニターをせしめて一週間、今やお嬢様の数はクラスに入りきらず廊下まで伸びていた。にもかかわらず声援一つ出ず黙々と見るのみ。スマブラの音とコントローラーのカチャカチャとした無機質な音のみである、中々の恐怖現場だ。


 ミナミの腕前の方はと言うと普通のプレイヤーならば一定のセオリーを覚え、慣れてくると腕前が頭打ちになりがちだがこの阿修羅は違った。何が原動力なのかは知らないが俺が言ったアドバイスに留まらず覚えると便利だけど難しいよ、レベルの小技まで俺の携帯を盗み調べトレモに籠る始末。なんだよ履歴の「すまぶらかちかた」「べよねつたのじやくてん」って少しはスマホに慣れろ。


 そんな訳でそれなりに焦っている、既に熱帯の上級者には遅れを取らず戦えてしまっていて、昨日の夜タミスマ常連組に1-0まで持ち込んでいた時は目を疑った。相手もまさか空ダや崖奪いと言う単語すら知らないのに使っているデタラメ小娘に落とされているとは欠片も思っていないだろう。


 もはや手など抜けない、ぶっちゃけ負けそう。本気なんてとっくに開放している、全神経を集中させ脳みそをこねくり回しながらやっと勝利を収めるレベルである。癖を指摘するのもやめた。俺の実力を疑いそうになるが夜一人で熱帯に入ると軽々VIP帯に入り暴れる事ができ安心しつつも、それと同時にミナミの異常性を再確認した。


 いやーきついっすオフラインだからと言って崖受け身を100%ミスらずNBすらジャスガで近付いてくるガノン相手にべヨはきついっす。


 ステージはオルディン大橋、曲は傷だらけのミドナ。


 試合は既に佳境。双方1ストという状況だ。パーセント有利だがこちらは60%、対してガノンは100%。重量級故こちらが崖側でスマッシュでも当てない限りあってないような差だ、圧をかけつつせめて少しでも有利対面のうちにもっと稼がなければ。


 掴みを狙い肉薄、その場回避で躱され弱、大きく横へ飛ぶベヨ。横B、上B、右斜め上回避で復帰。ガノンはこちらの無敵時間を読み二段ジャンプ急降下空前を降って来た、こちらがその場、攻撃上がりをしていたら終了である。こわい。ジャンプ上がりで頭上へ、ガノンは小ジャン空上を振って来る。こわい。


 二段ジャンプで二回目の空上、着地し続いて空前…いや違う!反転空後だ!また小技を使ってきやがった、当たっていたら大ダメージである、が。これも機動力の差で避けステージの中心へ。ステップを踏み空振りを誘うガノンへ大きくジャンプし下入力横B、下に入力することで空中では普段斜め上に上がる挙動を斜め下に変える技だ。回避が間に合わず浮く、上Bで巻き込みもう一度場外へ向かい横B、今度は入力なしだ。


 大きく場外へ行くガノン、だがまだだ。バレット(NB)を溜めバーストを狙う、が避けられる。上Bで戻って来るガノン、崖落ち空上などを警戒する為再度中央へ。回避上がりを使い距離を詰めてきた。バカめ、ここがコイツのまだ伝えていない(伝えたくない)癖。回避上がりしかつ肉薄している時の次の行動は…弱だ!


「あっ!」


 刺さる。カウンター。ベヨネッタの見せ場の一つ、ウィッチタイムが。


「さよならああああ!!ピットクン!!!」

「誰がピットくんですか!」


 無慈悲なウィケッドウィーブ(横スマ)を出しバースト演出、ザ・エンドってね。


 ゲームセット。あー疲れた、外の空気でも吸ってこよう。連戦を望むミナミを捨て置き逃げるように「逃げるんですか?」うるせえ!廊下へ、廊下へ…多い多い人が多い!見世物じゃねえぞ!いや元々見世物だった、本末転倒な思考をするまで追い詰められているのか俺は。





 それは例のごとくスマブラを終え、ミナミのお花摘みを待っている間プリコネでもしようかと学校でスマホ開いたが圏外に気付き、退屈だな…そうだプリコネでもやるかと思っていた時。


「あの…よろしいでしょうか、くろうちゃん様?」


 誰だよ…そんなネーミングセンスの欠片もないあだ名考えたやつ…しかもこの子と初めて喋るぞ。天然か?


「どったの?急に、このゲームの事?」


 そろそろ勇気あるお嬢様が聞きに来たのか、先程まで廊下まで人で一杯だった所がモーゼのように開いていた。静かに面白い事しないでほしい、笑うから。


「あの…その、スマブラの件なんですが…」


 私も少しやってみたいって所だろう。よし、作戦成功。やはり俺の作戦は完璧だ…ここはミナミに悪いがコントローラーを譲って俺は新しい生贄の指導に回るとs


「ルイージのつかみ始動のコンボ、下投げ空下空N空下までは安定するんですがそこからの空下上Bフィニッシュが不確でして…どうしたらよろしいでしょう…」



「は?」


 

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