理想個体ガルーラ

 後ろが弱そうな眼鏡をかけた女教師がガラリとドアを開けそれに続く、既にクラスの全お嬢様が綺麗な姿勢で揃っていた。昨日よりマシだが中々怯む。


 黒板の前に立った先生に挨拶を促される。緊張して中々声が出そうもないのに往々にして学校という物は無茶な事を押し付けるものだ。


「コンニチハ!ボクの名前は恋恋慕蠱毒苦郎!気軽にクロウちゃんって呼んでね☆好きな食べ物は鯖の味噌煮、最近の趣味は近所の口うるさいジジイが育てている盆栽のざくろが実になる度摘んで縁側に並べておくことさ!これからこれから夜露死苦ゥ!」


 慎ましやかな自己紹介を終え置いてきぼりにされたかのような顔をするお嬢様ズ、引きつった顔の教師に席を指定され座る。めっちゃ座り心地いいし歩いてる時なんか凄いいい匂いしたぞ。


 何故か自然に横の席にいるミナミが修羅のような顔でこちらを見ている。トイレでも我慢してんのか?


「以前お話した通り彼は皆様に庶民の生活や習慣、世間で流行している物を伝えるためにお呼びしました。皆さん遠慮せずに質問してあげてくださいね。ですがくれぐれも!影響され過ぎないようにしましょう」


 先生顔が怖いよ顔が。


 HRが終わると横の羅刹が足を踏んずけてきた、そのすぐ手を出す癖をやめろ。襟を掴み寄せ小声でなんか言ってくる。


「何またやらかしてるんですか!ほら誰も近寄りすらしないじゃないですか、怖がらせてどうするんです!」

「大丈夫だって安心しろよ、俺の作戦 is GODだ」

「信用できません」


 冷たい女め、お嬢様ハーレムに加えて欲しいとあとから言っても遅いからな。


 遠巻きに視線を感じながら授業が始まった。お嬢様学校だから何か特別な事でもするのかと思ったが別にそんな事はない。普通にクソつまらない数学なり国語なりを右から左へしっかりと聞き流しあっという間にお昼休みだ、作戦開始である。


「オイ、昨日の続きをやるぞ」

「ここで!?一体何考えてるんですかついに顔の病気が脳にまで行ったんですか?」


 コイツ後で泣かす。


「作戦て言ったろ、ここでやってりゃお嬢様なんて一本釣りよ」


 趣味の定番はお茶かお花って言ってたしここでド派手に大音量でやってりゃ別世界に気になって寄ってくるだろ多分、道に落ちてるエロ本覗いちゃうのといっしょいっしょ。なんて計算し尽くされた完璧なプランだ。


 カバンからおもむろにスイッチと無線のプロコン2機を出す、学校でゲーム持ち寄ってやるのなんかドキドキしていいよな。トイレ休憩の隙に孵化したての理想個体ガルーラ盗んだのはいい思い出だ。


 諦めムードのミナミが椅子を寄せてきた、コイツもそれなりにやる気じゃねえか。まあ昨日触りの部分を教えたあと睡眠時間を削ってキャラ選びをしていたのを俺は知っている。カワイイ奴め。


 本ばっか読んでるこいつもハマるならこの作戦は見当違いってことは無いはずだ、ないよな?ちょっと不安になりながらも起動する。とーりーどぉーりーの色ー達がー


 唐突に歌から始まる今作はやはり中々慣れない、シャキン!とスキップ安定である。画面が小さいので必然的に横に並ぶミナミの和風な体臭を堪能してふと後ろをちらりと見ると、かなりの人数が小さい液晶を覗き込んでいる、びっくりした。だが思わず笑みが。1人で10人くらいやれば行けるか…?


「いつも最後まで聞かせてくれませんよね…」

「自分で昨日夜中見てたじゃねえか、ホラ。コントローラー接続したからはよ持て」

「なっ、何故それを」

「甲賀忍開祖の俺を舐めるなよ、気配を消すなんて造作もない。朝持ってく時コントローラーの配置変わってたし」

「くっ。いつもぼんやりしてる癖に…」


 余計なお世話だ、さて早速大乱闘へ進む。連打すればこれを選択出来る辺り製作者は『理解って』いる。オンラインばかりのニートは死ぬ。ルールは3スト7分、ギミックオールオフの終点化ランダム。ステ曲は俺好みに全て変えておいた。迷わずベヨネッタを選択、カラーは素でいいや。


 ミナミは少し悩んだがガノンを選択、昨日気に入っていた様だがやはりか。重量級に似合わない発生の速さとクソデカ判定。復帰は心もとないが高パーセントの撃墜手段を幾つも持った怖いキャラだ、まあ腕前のアドで余裕だろうが。


 ステージはアンブラの時計塔、曲はTime For The Climax!。


 ラウンドワン、ファイッである。開幕少し前に出てバレット(NB)、身長が高いガノン、おおよく当たりよるわ。しばらくノンチャで連打、稼ぎよりも気分を削ぐ方を優先する。


「性格の悪い…!」


 なんとでも言え。30%まで蓄積してるにも関わらず前進する様は正に匹夫の勇だ。その匹夫が下Bで突っ込んできた。その技出の割に判定も威力も強すぎて嫌いだ!が、しかしそこは初心者、下Bを出す直前しゃがみを見せる。普通なら分かっていても避けられない、がこちとらしゃがみモーションを1Fから確認済みだ造作もない。バレットを撃ちやめ即ジャンプ。間一ドット、開け避ける。


 一度そのまま二段ジャンプで距離をとり、着地後ガードを挟みつつじりじり接近。生意気な弱を避けこちらが弱を挟み込む、ジョジョよろしくオラオララッシュを決めダウンした所を狙い長押し横B。コイツに受け身はまだ早いらしく素直に当たり、横に大きく流され浮くガノン。こんな素直な動きをしてるのに読まれないとはまだまだよ。間を開けず上B、空右B、空左B、最後に空上と親の顔より見たお手軽黄金コンボを決める。


 「くっ!」


 なんだお前バトル漫画みたいな声出して。やはりゲームは人を変える。素早く降下入力、落ちながらこちらに空前を振ってくる、おかわいいこと。軽く後退し避け着地に合わせまた黄金コンボ。悪いがこれがベヨのダメージソースだ、大人の10コンボである。諦めて受け入れてくれ。


 一日目にしてはかなり上手いと思うが流石にワンサイドゲームだ。サクッと3-0でウィナーザチキン、ゲェイームセーットである。圧倒的な力ってのは、つまらないものだ。


「……もう一度お願いします」


 火がついたな、良きかな良きかな、軽く捻ってやろう。


 後ろを確認すると食い入るように見ていたお嬢様ズ、オイさっきと目付きが違うぞ。予想以上だ。しかし光の速さで顔を伏せ一斉にどこかに行ってしまった、なんやねん。







 ここはクラス棟から離れた談話室。軽い食事やお茶が用意されておりそれを楽しみつつ友と会話に花咲かせたり図書室は静かすぎると少しめんどくさいお嬢様達が読書をしている自由空間である。しかし今日は全く別の空気を漂わせていた。それを放つのは先程教室を飛び出したA組の面々だった。


「一体何かしら…先程の液晶とその画面を動かしていた機械は…」

「わたくしはそれより画面の内容が気になりました。何か…は、はしたない格好をした女性と恐ろしい顔をした鬼が戦っているようでしたわ…」

「まるで演劇の大引きのようでしたわね…」

「…わたくし、あれが何なのか気になります」

「わたくしも!」

「そうだわ、私今日帰ったら執事に調べさせてみます、お金ならあるもの!何としても調査させてみせますわ」

「まあ、いいわね!なら私はお父様の会社で同じような物を取り扱ってないか社員さんに聞いてみましょう。お金ならあるわ!」

「それはいいわ!祖似伊お嬢様のお父様は確か世界レベルのIT大手企業の社長さんですものね!」

「ならば私も、我が瀬賀家息女の誇りをかけて全力で調査させて頂きます」

「瀬賀お嬢様のお父様は確か電子遊具機器専門の会社…でしたわよね?」

「ええ、私も何かお仕事の力になれればと思いお父様に相談したのですが、まだ早いと言われ断られました。私ももう二回生です、恥ずかしいですが虎の子の『パパ』を使ってあの興味深い物体の正体をつかんで見せましょう。いざとなればお金ならあるので隠密を依頼します」


 えいえいおう、と一致団結。


鳥かごに入っていた可愛らしい細腕の姫達が、金と権力と言うフェラーリもびっくりなバケモノモーターの付いた船に乗りこみゲーム業界と言う大沼へ漕ぎ出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る