1-5 シュラウド
─意識は0.5秒遅れてやってくる─
どこからの学者が言ったこの話が本当なら、
はっきり言えば今のベリオンでも
劇的な登場を果たしたベリオンは、右手首の
突然の出来事に両脇の二体はその灰色の瞳をひんむいてしまうが、会敵している
投擲とほぼ同時に駆け出していたベリオンは、すでに一体の間合いに侵入しており、オークは反射的にその腰にぶら下げた血錆びだらけの愛剣を引き抜こうとするが、それよりも強力なベリオンの腕力で柄頭を抑えられ、驚く間も無く、左手の人差指と中指で創った鉤爪によって喉仏と頸椎の一部を抉りとられる。
力なく崩れ始める仲間の巨体、もう一体のオークは目撃することになる。ベリオンがそれの腹へ胸へと踏み台にして宙高く跳躍し、自分に放つ半回後ろ蹴りを。
足刀は無防備な、そして人間の倍以上の太さを誇る首を捉えた。一見無謀にも見えるが、
人の膂力を遥かに凌駕する三体のオークを銃火器を魔法も使わずに0.5秒で制圧。
だが、18年ぶりとあってか完璧の仕事とは行かなかった。足下から聴こえる呻き声、最初の一体を
しかし、そういう意味ではこの男は慈悲深い。
「所詮はどこまでいっても外道てことかい····」
意味深な言葉を吐きながら、ベリオンは刺さったダガーナイフの柄頭を踏みつけ介錯する。苦しみから解放させた訳ではなく、かといって怨念を込めた訳でもない。
私も長年この男の
大切な場所や人達を奪われたら誰もが、絶望し、悲しみ、怒り暴れるであろう、胸が引き裂かれそうな錯覚に襲われるであろう。もしそれと同じ感情が駆け巡ればこの男にとってどれ程不幸中の幸いだったであろうか。
ベリオンの頭の中を往来したのは安堵のみ。部屋まで漂う
戻った時のような、安息としっくりとした感覚のみ。
理性が必死に負の感情を、嫌悪感を巻き起こそにしても本能が押し返してしまう。18年かけて培ってきた情愛の、博愛の精神がたった一度の修羅によってかき消された。その覆しようのない事実は、男にとって何よりも辛い事実に違いない。
「·····ベリオン、ベリオンだよね?」
オークの薄汚い血にまみれたアエリアはその表情を不安に曇らせる。恐らく私の次にベリオンを理解している彼女も見いだしたのだろう、ベリオンの中に潜む
「·····いや、俺はただの
そう切り捨てのような言葉を投げ捨てベリオンは、外の残りを処分しようと部屋を出ようとするが、アエリアに阻止される。
「!? ダメ!! 行かないで!!」
掠れるような声を、切実な声を出しながら立ち去ろうとしたベリオンの背中を掴み、押し倒す。恐らく彼女もベリオンの死を恐れて止めた訳ではない、ベリオンが
向かい合うように横向きに倒れる二人、月夜に照らされた少女の涙で濡らされた、様々な感情渦巻く表情を
目は口ほどに物を言う。
「·····安心しな、俺は死にやしないしお前を置いて何処にも行きやしないさ」
ベリオンアエリアの涙を掬い、優しく微笑む。
「本当に? 私たち、
「あぁ、問題ないさ。なんせ俺はお前のヒーローなんだからな」───
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