エーガン・ジュラインのピロロでもわかる魔具講座 <第1回>照明魔具


エーガン・ジュラインのピロロでもわかる魔具講座


       講師:冒険者協会技術局

          主任技術者

          エーガン・ジュライン


<講座の前に>


私の事をご存じの方もそうでない方も念の為自己紹介をしておこう。冒険者協会技術局主任技術者のエーガン・ジュラインだ。この講座では誰にでも分かり易くをモットーに、出来るだけ噛み砕いて魔具についての解説を行いたいと思う。


興味が湧いた方は、是非協会が発行している図書目録をご購入頂きたい。


では早速講座に入る。




<第1回>


照明魔具


この講座を聞いている方で照明魔具を知らないという人は居ないだろう。誰もが皆使用した経験が有る筈だ。使い方は簡単だ。魔具に触れ、魔力を流すと明かりがつく。ただそれだけの魔具だ。


聖鐘歴以前からも存在したと言われるだけあって歴史も古く、最も身近な魔具であると言えよう。この照明魔具が開発されるにあたってある画期的な鉱石が発見された事が我々にとって幸運だったのだ。


その画期的な鉱石とは当然、真光石の事だ。

真光石とは魔力に反応して光る鉱石で、この世に存在するありとあらゆる照明魔具に必ずと言っていい程使用されている。大きさや魔伝導率の個体差によって性能は前後するが、真光石の真髄は、一度微弱な魔力を流せば約1ヶ月もの間、明滅する事無く自らを光り輝かせる事が可能な点だ。


実はこの真光石が使われる様になってからは日が浅いという事をご存じだろうか。


真光石が発見される前の照明魔具は今で言う魔導液に近い性能を持ったラプシンス溶液と呼ばれる液体を用いて発光させていた。


ラプシンス溶液はその名の通り、ラプシンスという魔獣の体液から採れる液体で、真光石と同様、魔力を流すと光を発する性能を持っていた為、角灯の様な容器に入れて魔力を流す事で明かりを手に入れていたのだ。


しかしこのラプシンス溶液にはある弱点があった。


ラプシンス溶液の弱点とはズバリ低い維持性能だ。

1度魔力を流して発光させるとたったの1刻しか持たない。つまり夜に使用すると仮定しても、日が沈んで就寝するまで数回に渡って魔力を込めなおす必要があるのだ。


その昔王城や貴族の屋敷では、照灯係という役職が存在していたという。その名の通り数多く存在

する照明魔具を絶えず灯し続けるという職業だ。


そんな楽な仕事があったらやってみたいと思うだろうか?私はそうは思わない。毎日照明をつけるだけの仕事など何の面白味も無いからだ。そして弱点は1つだけでは無かった。


ラプシンス溶液のもう一つの弱点とは、その劣化性にある。早い話が、3日も使い続ければどれだけ魔力を込めても光らなくなるのだ。


照明魔具1つを使い続けるにあたって3日に1回内容物を交換する必要があり、家計の負担の多くを占めていたという記録が残っている。余談だが、身分の高い者は常に屋敷を明るく灯す事で、自身が持つ経済力を他人に誇示していたという文化もあったそうだ。


そこで登場したのが真光石だ。今は廃れてしまったが大昔には探検家という職業があり、その筆頭格のとある人物が発見した真光石がこの世界に新たに火を灯す事となる。


その探検家とは何を隠そうピンポス・ドルテスその人だ。

誰もが絵本で読んだ事があるだろう。ピンポスの事はここでは詳しく触れないが、ピンポスが発見した真光石で照明魔具は革新を起こした。


何度も灯しなおす必要がなくなり、消耗品も無くなった。ピンポスは希代の探検家であり、庶民の懐事情の救世主でもある訳だ。


だが、その利便性が逆にある不便を産んでしまう事となる。今までは短時間で消えていた光が、真光石の特性上、逆に消えなくなったのだ。従って、その明かりを遮断する様な機能を搭載する角灯が主流となったのだが、これでは不便の種類が変わっただけだと考えた人が現れた。


それが冒険者協会技術局初代局長バッド・ラディングだった。ラディング氏のある発明品が本当の革命を起こしたのだ。


皆さんがご家庭の照明魔具を消す時には、必ず決まった箇所に触れて魔力を流している筈だ。実はそこにラディングの技術の粋が詰まっている。


その箇所には、吸魔筒という魔具が内部に装着されている。一方の穴から魔力を流すと、他方の穴から対象物の魔力を吸うという機能を有す魔具だ。この吸魔筒こそがラディングが革命を起こした発明品なのだ。


この技術は世の中に溢れている様々な魔具に転用されている。例えば、冒険者の方であればブレムラフという気体交換を行う魔具をご存じかと思うが、ブレムラフはこの吸魔筒の技術を応用して開発されたものだ。


照明魔具に話を戻すと、明かりをつける時にはどこに魔力を流しても良いのに、消す時に魔力を流す箇所を指定されているのは、吸魔筒が真光石に溜まる魔力を吸い取っているのだ。


照明魔具1つとっても重なる歴史と先人達の知恵が凝縮されている事がお分かりであろう。次の講座の題材はまだ決まっていないが、1度受講者の方々のご要望を伺ってみようと思っている。


それでは次回お会いしよう。




※お客様の国によって通貨が違いますので、

 お求めの際はお近くの冒険者協会までお問

 合せ下さい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る