第3話

次の日、私が最初に視線を感じたのは昼休みだった。


「万理華、伊吹先輩に連絡するね。」


「わかった。」


返事が来るまで私たちは自動販売機で飲み物を買うか迷っているという風に装い、その場に滞在していた。


「あ、私たちのこと見つけたって。移動しよう。」


私たちはわざと大きめの声で、


「今日のお昼どこで食べよっか?」


「いつもの席、人がいたもんね。」


そう話しながら人気の無い方に向かっていく。大分人も少なくなってきた。


「わっ!」


後ろで声が聞こえる。もしかして…


先輩が見たことの無い人を連れている。


「あ…」


「香菜ちゃん、こいつら僕とクラス隣の奴ら。ここからは自分で話せよ。」


「ご、ごめん…つい出来心だったんだ。一目惚れ、だった。可愛い子がいるなって、話すきっかけがほしくて、怖がらせるつもりなんて…とにかくもうしません。」


私は特に怒りを感じることは無かった。ただ、もう怖い思いをしなくていいんだという安心の気持ちが大きかった。


「もうしないって言葉が絶対なら、先生にも言いません。ただ、もう私の周りには近づかないでください。」


「もちろん…本当に、悪かったって思ってるよ。」


「もういいです、なのでもう…顔を見せないでください。はやく、行ってください。」


「う、うん…」


その人がいなくなったあと安心して力が抜けてしまった。


「香菜、大丈夫?」


「うん、ただ安心したら力が抜けちゃって…伊吹先輩、本当にありがとうございました。」


「ううん、無事に解決できてよかった。」


「あの、今度お礼…」


「そんなのいいよ、ただこれからも時々一緒に帰ったり話したりしてくれればそれでいいよ。」


「え?そんなのお礼にならな…」


「まあまあ、とりあえず昼休み終わっちゃうよ。またね、2人とも」


そう言い先輩は去ってしまった。


「本当に解決して良かったよ…とりあえず、ご飯食べよう。それから一緒にお礼、考えよう。」


「そうだね、万理華。ありがとう。」


あまりにも上手く行きすぎて少し怖いぐらいだったけど、もう視線に悩む必要が無くなったという喜びから忘れてしまっていた。


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