第3話  『思いがけない助け舟』

 



 おっと、思わぬところから助け舟が出た。今まで黙っていた神官ぽい女の子からだ。

 周りの他の仲間達は、まさかその子から言葉が出てくるとは思わなかったみたいだ。

 すると、自称勇者が焦ったように開口して、


「シャル! お前は何を言って――」


「それに、神託を受けたのはシャル達三人だけ。フィーネは受けてない」


「――ッ! それはそうだが……」


 その内部告発を受け、他の三人は動揺している様子。フィーネリアもまさか俺を擁護する発言が出るとは思っていなかったようだ。俺も驚いてるけど。


 ……うーん、ライバルが減るとでも思っているのだろうか。


 可愛らしい顔付きの割に中々打算的な性格をしていると思われる。

 まあ、俺も利用できそうなのでさせてもらうか、という打算的な思考に至って、


「この子もそう言ってるんだし、見逃してくれませんか? それに、こいつの代わりなんていくらでも見つかるんじゃないですか?」


「――そういう問題じゃない! それに、フィーネの代わりになる精霊術士なんてそうそうこの国に居ないんだぞ!」


 俺の提案に赤髪の子がマジギレしてきた。

 ひぃ、怖すぎる。美人が怒ったらこんなに怖いんだな。


 俺が彼女の剣幕に慄いていると、またもや神官ぽい子が口が開いて、


「……でも、シャル達三人で戦闘に困ったことがないよね」


「シャル! あなたはどっちの味方なのよ!」


 フィーネリアが悲壮を込めた声でそう訴えるが、神官ぽい子が「それに」と付け足して、


「フィーネ、精霊を通して決闘をしたんだよね?」


「……ぅ、そう、だけど」


「なら、それを解くのはシャルでも無理。その契約を解消するには禁呪ぐらいじゃないと、ね」


「――――」


 容赦無く現実を突きつける彼女。やっぱり精霊の契約というのはおいそれとしていいものじゃないらしい。

 フィーネリアはそう告げられて顔を青くして口をパクパクしている。


「まあ、そういうことみたいなんで。お先に失礼します」


 頃合いと見て、微動だにしないフィーネリアの手を引いてギルドから出ようとする。もうこいつらとは関わりたく無い。


「――ちょっと待った! まだ話は終わってない!」


「まだ何かあるんですか?」


 赤髪の子はまだ諦めきれていない様子だ。でも、精霊のなんやかんやは俺が何か出来ることでもない。


「――ッ! ……フィーネ、こいつが死んだらすぐに戻ってくるんだよ?」


「……ぅ、わかった、アンナ。ごめん……」


 何故か俺が死ぬ前提で話を進めている。前の世界では生を全うできなかったらしいから、この世界では老衰で死のうと意気込んでいたところなんだが。


「フィーネが謝ることじゃない。悪いのは全てアイツだ」


 すると、俺が悪者であることがさも当然かのように指を指してきた。俺を睨み付けてくる切れ長の目にはこれでもかというほどに憎悪の感情が入り混じっている。怖い。

 俺がその視線に震えていると、赤髪の子は俺との距離を詰めて来たので俺が少し後ずさると、


「キサマ、この子に何かしたらただでは済まさないからな?」


「そんなつもりは無いですが……こいつはもう俺の奴隷なので、あなたにあーだこーだ言われる筋合いは無いです」


 なんで俺はこんなに信用が無いんだろう。まあ、でもフィーネリアはもう俺の奴隷。これは重要な事だ。


「――キサマッ!!」


「……落ち着いて、アンナ。彼に害意は無さそう」


 またもや神官ぽい子が助けてくれた。

 心の中で彼女にグットサインを送る。彼女もアイコンタクトで返してくれた。気がする。

 赤髪の子はまだ納得しきれていないような顔で、


「くっ……いつか必ず、フィーネを取り戻す。心に刻んでおけ」


 神官ぽい子が、赤髪の子の冷静さを取り戻させてくれたのか、彼女はそれだけ言って踵を返した。


「行こう、ハンス」


「――ちっ、仕方ない、他の女を探すか……」


 ハンスと呼ばれたあの調子に乗っていた少年は、心底惜しそうな顔をして去っていった。……おい勇者、心の声が漏れてるぞ。俺は拾った。

 そして、神官ぽい子も俺の方を一瞥してその後に続いていった。


 そしてその場に残されたのは、俺と、フィーネリアだけ。


「――――」


 彼らなら助けてくれると信じていたのだろう。

 彼女は一縷の望みが砕け散ったのを確認して、絶望した顔になっている。


「……ああ、そうだ。ヘレナさん――」


 ギルドを出る前にしなければいけない事を思い出したのでヘレナさんに声をかける。

 今から行く所に必要なものだったのに、すっかり忘れていた。危ない。


「――よし……ほら、行くぞ」


 用が終わったので無抵抗な彼女の手を引いて、俺達はやっとギルドの外に出れたのであった。



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