第5話 不可解なメール
「最近さぁ、変なメールが届くんだよねえ」
収録前の打ち合わせで、不意に作家の高崎さんが言った。
「変なメールですか?」
それはどういった類のものだろうかと考えながら言葉を返した。
「そう。文字化けがすごくて、全然読めないんだよ。似たようなのが
何通か届いてるけど、どれも送信元も怪しくてよく分からなくてさぁ」
「嫌がらせ、なんでしょうか」
心当たりはなかったが、こういう仕事をしている以上、そういうこともあるかもしれないという思いもあった。
「なんなんだろうねえ。これまでそんなことなかったからなあ。行き帰りとか一応気を付けてね、ユウ」
「分かりました」
今は夏で、帰りの時間でもそこそこ明るいけれど、周りだけは良く見歩こうと心に決めた。
それからしばらくしても、同様のメールは届き続けた。
本文は文字化けで読めず、送信元も毎回違った意味の無さそうなアルファベットの羅列で、返信することも出来なかった。
それは不定期に月に1~2回くらいのペースで届いたが、他に特に変わったことはなく、身の危険を感じるようなこともなかった。
番組自体は、多くはないがある程度の反響をもらえていて、たびたびもらう称賛や励ましの言葉は大きな自信になり、マイクの前で緊張することも少なくなっていった。
元々僕の受験の都合も考えて高校2年生の間の一年という契約で始まった番組だったため、折り返し地点はあっという間に過ぎ、紹介できる手紙が残り僅かになっていくのがとても悲しく、心苦しかった。
「ユウ、最終回なんだけどさぁ」
年内最後の収録を終えたあと、帰り際に高崎さんに話しかけられた。
「はい」
「ユウ自身の手紙を読んだらどうかと思うんだけど」
「僕自身の、ですか?」
「そう。番組のリスナーさんに宛てた手紙でもいいし、今までのみたいに完全に個人的な手紙でも構わない。時間はまだたくさんあるから書いてみてよ」
僕が個人的に手紙を書くとしたら。
僕は、誰に何を伝えたいだろう。
「分かりました。やってみます」
最後に手紙を書いたのは、いつだっただろう。
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