第2話 夢への一歩

 震える手でダイヤルを回して周波数を合わせる。

 ラジオのパーソナリティになりたいという夢が叶った最初の一歩が、今日、流れる。


 わずか数日前に録ったはずなのに、遥か昔のことのように思えた。

 自分はどんな息遣いで、どんな声色で、何を喋っただろうか。

 もう出来ることは何もないのに、どうしようもなく緊張して落ち着けなかった。

番組までのあと一分が、ものすごく長い。


『こんばんは』

 イヤホンから聞こえたその声は、どこか違和感はあるけれど、紛れもなく自分の声だった。

『この時間は、皆さんからお預かりした、“大切な誰か”に宛てたお手紙を電波に乗せてお届けします』


 地元の小さな放送局の、夜中のたった5分の番組。

 それでも自分の声が電波に乗ったことに違いはなく、高校生の自分にとって大きな大きな一歩だった。


 ねえ、僕はパーソナリティになったよ。

 どうかこの声が、君まで届けばいいのに。

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