真夜中のラブレター
南 陽花
第1話 海の見える高台で
小さな本体からアンテナを伸ばして、ダイヤルを回す。
ノイズの中に耳を澄まし、やがてくっきりと声を見つけ出す、この瞬間が好きだ。
今どきはもうインターネットを使ってクリアな音質で聴くことも出来るのだろうけれど、少しノイズ交じりでアナログ感が残るくらいの音のほうがラジオらしくていい。
小さな町の高台に位置するこの場所は、人気がなくて少し寂しいけれど、それでもここからは、海がよく見える。
私だけの特等席に腰かけて、月明かりに照らされた穏やかな水面を眺めながらラジオを聴くこの時間が、私の唯一の楽しみだった。
近くに咲いた桜の木から、花びらが一枚、風に乗って舞い降りてきた。
思わず差し出した私の手のひらにとどまることなどなく、ひらりと次の風に吹かれていく。
ラジオからは、知らない番組が流れ始めていた。
そうか、もう、春なんだ。
初めて聴くはずのパーソナリティの声は、どこか懐かしく感じた。
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