10話 第2弾の乙女ゲームとは
「私は、この第2弾には、一切登場しません。第2弾のヒロインは、新しいヒロインが登場するんですよ。」
そう語るアレンシアは、何故か…得意げな顔をしていたが、フェリシアンヌとカイルベルトの2人は、その話に唖然とする。前世のフェリシアンヌは、第2弾が発売されたのを全く知らなくて、元旦那のカイルベルトは第2弾の発売を知っている。しかしこの第2弾が発売されたのは、第1弾の発売時から何年も経っており、子育てなどで色々と忙しかった彼女は、知らずにいたのだ。旦那様も、発売前に聞いた第2弾の情報があまりにも酷い為、彼女には黙っていた。ゲームのフェリシアンヌは、彼女のお気に入りのキャラであったのだから…。
「新しいヒロイン…なんですの?」
「はい。今迄には登場していない人物で、私達より年下です。思い出した情報と先日見聞きした情報ですが…。新ヒロインは表向きは病気が治ったという理由で、もうすぐ王立学園に入学します。」
「表向き…とは?……どういうことですの?」
「乙女ゲームではそういう設定でした。しかし現実では、全く違うみたいなんですよね…。」
フェリシアンヌはまた乙女ゲームが始まると言われ、内容が頭に入って来ないようだった。カイルベルトが第2弾を知っている様子を見せても、まさか前世の知り合いとは思ってもいない為、カイ様は…知っておみえなのね、という風に思っているぐらいだった。
然もアレンシアが話す内容には、不穏な空気が隠れているようだ。自分達の年下の新ヒロインが、途中から入学して来るとは…どういうことなのか、理解出来ない。アレンシアの言い方では、何か含みがありそうな気配で。
「何が…違うのですの?…現実とゲームでは違っていても、おかしくありませんわよ。」
「そうですね。確かにそうですけど…。彼女は転生者ではなさそうなのに、既に設定が違っているみたいで…。」
「あらっ?…それならば、尚更…問題ないのではなくて?」
「それが…大ありなんです。前世の乙女ゲームより、質が悪いかも…。今度のヒロインの正体は、身分が高い筈です。その事実は、乙女ゲームの最後まで出て来ないので、全クリアした人しか知らない情報です。本人さえ、知らない設定なんですよ。だから…それこそが、問題なんですよ。」
「……どういう意味ですの?」
アレンシアが言いたいことが、今一フェリシアンヌには上手く伝わらず、何が問題なのかが分からない彼女は、首を傾げる。そのちょこんと首を傾げる姿は、庇護欲を掻き立てるような愛らしさがあるなあ…と、アレンシアはそう思いながら見つめていた。フェリシアンヌの隣に座るカイルベルトは、優しい目で見守るように彼女を見つめていて…。
うおお~。これが…あの噂の溺愛状態の様子、なのかあ~。…うんうん、中々いいわね。生で…乙女ゲームキャラの溺愛シーンが見られるなんて、役得だなあ。
そこまで考えて、アレンシアは…思考がストップした。…ん?…乙女ゲームキャラの溺愛シーン?…それって、誰のこと?…あれっ?…そう疑問が湧き、グルグルと頭の中で考えているうちに、漸く…自分の違和感の元に気付いて。
「フェリシアンヌ様の婚約者さんっ!…お名前、もう一度教えてください。」
「…はあ?……ああ、カイルベルト・アーマイル…だが。」
真剣な顔をしたアレンシアが鬼気迫る表情で、カイルベルトに名前を聞き直す様子に、彼だけでなくフェリシアンヌも困惑していた。彼が名乗る名前を聞いたアレンシアは、やっぱりそうなんだ…と呟き、黙り込んで。一体、どうしたというのだろう…。フェリシアンヌとカイルベルトは、そう…目線で会話をして。
「え〜と、アーマイル様。残念ですが…貴方は、第2弾の攻略対象の1人です。今のアーマイル様の溺愛っぷりを観察して、思い出しましたよ…。乙女ゲームでは今と同様に、ヒロインを溺愛するんです。フェリシアンヌ様を溺愛する姿がゲームのスチルそっくりで、もう…役得です~。」
アレンシアはそう言いながら、両手の指を祈るように絡ませ、うっとりと夢に浸っている様子である。カイルベルト達を見ているようで見ていなくて、恋に恋する乙女という雰囲気だった。もしかしたら、こういう姿が本来のアレンシアなのかもしれない…と、2人は少々肩透かしを食らいながらも、そういう感想を持っていた。
それにしても…カイルベルトが、乙女ゲームの攻略キャラだとは。2人共…暫しの間、沈黙する。フェリシアンヌは、新しいヒロインに攻略される彼を思い浮かべ、ゲームとは言えども…複雑な心境となり、カイルベルトは自分が攻略キャラに生まれ変わったことに、落胆する。
道理でイケメン顔だと、思っていたんだよ。前世の記憶がある彼には、うんざりな話である。
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「新ヒロインはその身分の所為で、家族から溺愛されて育ちます。幼い時は病気がちですが、両親達と田舎暮らしをするうちに、健康になるんです。彼女達家族は庶民でしたが、突然親戚の伯父さんと名乗る人物が迎えに来て、無理矢理彼女を養女に迎えます。家族と引き離された悲しみと、慣れない環境とで心の病を発症し、再び病気がちとなり、王立学園には…途中から入学することになります。此処までは、乙女ゲームの設定と同様のようですね。」
アレンシアが言いたい事情が、何となく2人にも見えて来た。本来の身分は高い筈の彼女は、血の繋がらない家族に育てられた、というのが事実なのだろう。そして年頃になった彼女を、親戚が彼女の立場を利用する為に、健康になった途端に…引き取ったのではないか、という事実に。しかし彼女は、血が繋がらないとはいえ、大切な家族から引き離され、その事実が…芯のあるヒロインにさせることだろう。但しこの設定は、乙女ゲームをする女性達の同情を引く目的で、設定されただけかもしれなくて、本意は
ヒロインが悲しい運命を背負っているのならば、攻略対象達はどんな過酷な運命を背負っているのだろうか…。そう気にするフェリシアンヌは、カイ様はどのような運命を背負われることになるのかしら、と考えてしまって。
「乙女ゲームでは、途中からの異例なスタートで来年度一杯までと、攻略期間が1年以上になります。現実ではどこまでが乙女ゲーム通りなのかは、まだ分かりません。見た目は乙女ゲームの設定通りに、同じ流れで進んでいますけど、現実のヒロインの性格が、乙女ゲームとは正反対みたいで…。」
「……それでヒロインは、何が原因で…途中入学になられましたの?」
「あっ、それはですね…。その引き取ったヒロインの伯父さんの家の使用人に、
「「………」」
学園に行きたくないからと、暴れるヒロインとは…。どういう人物なのか、想像出来そうにない。今の今まで、無理矢理引き離されて可哀想だ…と、同情していた気持ちが何処かへ飛んで行ったかも。アレンシアが続けた話では、「貴方は、高貴な身分の子供なの。」とか、「今の貴方の境遇が可哀相だわ。」とか、ヒロインの最初の養父母がそう語っていたらしく。兎も角その様子が溺愛し過ぎていて、本人も我が儘気味なのだとか…。
「…コホン。それで彼女の伯父とは、何者なのかな?…できれば、そのヒロインの名前も教えてほしい。名前が分からないと、対策しづらいからね。」
カイルベルトが仕切り直すように咳払いをし、ヒロインを引き取った伯父とヒロインの名を、アレンシアに問うて来る。カイルベルトが現実的な対応をしてくれるので、フェリシアンヌは安心して任せられると思っていた。ヒロインの名前や家柄などより、ヒロインの言動に目を向けていた、フェリシアンヌである。前世の時から行動派である彼女は、後先考えないところがあって。
「ヒロインの伯父と名乗ってますが、実は…本当の伯父ではなくて、伯父の振りしているだけだと思います。ゲームでもそういう設定だったので。伯父の名は、何だったかなあ…。何とか…公爵だったと、思うけど…。」
「カルテン国の公爵家ならば、アーマイル家、キャスパー家、ルノブール家の…3家しか…ないのだが。」
「……あっ、思い出したっ!…ルノブール家だ。この前お
「………」
「……なるほど、ルノブール家か。あの公爵ならば親戚だとか嘘を
「…え~と、確か…テ、テ…レ。…あっ、そうだっ!…テレサ…と呼ばれていました。確かこれは愛称だった筈なので、正式な名前がある筈だけど…。う~ん…。思い出せない……。」
アレンシアはカイルベルトの問いに、正確には答えられず…名前を覚えていなかったけれど、身分が公爵だとかヒロインの愛称だとかは、
「愛称が分かれば、大丈夫だ。ノイズ嬢、ありがとう。」
カイルベルトのフォロー(?)のお陰で、アレンシアは何とか役に立てたと、嬉しそうに笑う。漸く一仕事を終えたという風に、今までにない一番良い笑顔で。
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8話から続いています。第2弾乙女ゲームのヒロインの存在が、今回露わになりました。既に、乙女ゲームと現実の違いがあるようですが…。
漸く、第2弾乙女ゲームのヒロインの正体も分かり、カイルベルトまでが今回の乙女ゲームの攻略対象みたいで。
今のところアレンシアしか、乙女ゲームの内容を知らないようですね。
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