9話 元ヒロインの告白と真相
「……フェリシアンヌ様も、私と同じ…転生者ですよね?…フェリシアンヌ様が書かれた…あの日本語は、私と同じで…前世は日本人なんですよね?」
期待したような顔で、アレンシアが質問して来る。転生者仲間が出来て、嬉しそうだ。フェリシアンヌは目線を彼女から外し、暫し考え込む。…う~ん。私の前世が日本人ではないことを、どう話せば信じてもらえるかしら?
フェリシアンヌが中々返答をしない為、アレンシアも戸惑っていた。カイルベルトは今のところ、フェリシアンヌの隣のソファに座り、黙々と見守っているだけで。彼はまだ、口を出す気はないようだ。フェリシアンヌは仕方なく、ありのまま正直に話すことにした。
「前世では日本に興味を持ち、結果的には日本に…永住致しましたけれど、実はわたくし、元々日本人では…ございませんわ。私は…日本人と結婚した、西欧人でしたのよ。確か…フランス人だったかと…。」
「……えっ!?……日本に…永住?……日本人…じゃない?……日本人と結婚した…フランス人?…はああ~?!…えええ~~~~!?」
フェリシアンヌの意外な告白に、驚き過ぎたアレンシアは大絶叫を上げてしまい、その叫び声に反応したハミルトン家の使用人達が、客間に
アレンシアは立ち上がった状態で、あんぐりと口を大きく開けていたが、客間に雪崩れ込んだ使用人達に、再び驚いた彼女は「ひぃっ!?」と小声と共に、引き攣った顔となり。使用人達の慌てように、原因を作ったアレンシアも困惑気味だ。
使用人達がフェリシアンヌの方に視線を送ると、彼女は困ったように苦笑して…。如何やら…大したことがない、そう判断したロイドは、「大変、失礼致しました。申し訳ございません。」と言うが早いか、使用人達全員を客間から追い出し、そして最後まで残った自らも、再び一礼をして去って行き…。
アレンシアはその間、呆然と
「先程の話で、前世がフランス人…というのは、本当なんですか?…私が日本語で書いた手紙の漢字を、正しく添削されていたから、てっきり前世は…学校の先生だったのとかと、思ったのになあ…。」
「ヨーロッパ系だったとは…覚えていますが、フランス人だったかは…定かではありません。我が家に日本人留学生が来られたのが切っ掛けで、日本に興味を持ちましたのよ。日本語もその彼女に教えてもらい、彼女が帰国された後に私も、日本に留学致しましたのよ。」
「それで…そのまま日本に住んで、日本人と結婚したのですか?」
「ええ、そうですわ。その頃には、日本が大好きになっていましたの。漢字も得意になるくらい、勉強を致しましたのよ。ですから、今でもはっきりと覚えておりますわ。漢字検定は2級を取りましたが、残念ながら1級は取り損ねましたわ。」
「………。漢級2級って……。日本人でも、中々取れないのに…。道理で…外国人なのに、教師みたいに添削出来たのね…。」
アレンシアの問いに簡潔で丁寧な口調で、応じているフェリシアンヌ。真面目な態度で聞くアレンシアは、他人の意見を全く聞き入れない退場前とは、明らかに正反対の態度である。但し、フェリシアンヌが漢字検定を取得している…と聞いた時には、何か納得できないという感じで、ブツブツと呟いていた。呟く言葉は、目の前の人物達に丸聞こえだけど、その口調には悪意は全く感じられず、単純に驚いたという事実と、呆きれたような感想が混じっていて。
「前世の記憶がある転生者として、この世界が乙女ゲームそっくりだと、知っていたんですか?…あの時、ハイリッシュ様が婚約破棄を宣言された時も、ゲーム通りになるのを避けられたのですか?」
「…ええ、その通りです。ハイリッシュ様と婚約後に、全てを思い出しましたのよ。それからはずっと、彼を避けて参りましたわ。あの婚約破棄宣言は、わたくしが一番望んでおりました。彼と貴方には、申し訳ないとは…思いますけれど。」
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「…そうですよね。私も同じ立場だったら、同じ行動をしたと思う…。」
アレンシアの問いに、フェリシアンヌは申し訳ないと言いながらも、2人を利用したとはっきり認めたのである。アレンシアは特に驚いた顔はせず、自分も反対の立場ならばそうしただろうと、納得していた。
「それならば、話が早いですね。今日私が話す内容も、乙女ゲームについてなんですよ。あの乙女ゲームに続編があったのは、知っていましたか?」
「……続編?…あの乙女ゲームの…続編?」
「そうです。第1弾は、私がヒロインでしたが、まだ続きがあるんです。第2弾が…。私も…つい最近思い出したばかりで、ゲームが本格的に始まらないうちに、フェリシアンヌ様にお知らせしたくて。もうすぐ第2弾が始まるので…。」
自分達が登場する乙女ゲームは、あれが終わりではない…と、アレンシアは言いたいらしい。あのゲームに第2弾があるとは、フェリシアンヌは…全く覚えていないので、アレンシアが語っている内容が、本当なのかどうなのかさえ、判断が出来なくて。今聞かされた状態でも、全く思い出せないフェリシアンヌは困惑しており、返す言葉が見つからない。
「第2弾は、フェリシアンヌが蘇る…とか、幽霊になって登場する、そういう内容のゲーム…だったかな?」
今迄はずっと黙ったまま、傍観し続けていたカイルベルトが、フェリシアンヌに助け舟を出すようにして、2人の話に割り込んで来た。アレンシアは今更になり漸く気付いたように、カイルベルトを見ると…。数秒間、目を見開いて固まった後に、「…え〜と、誰ですか?」と、直球で聞いて来る。
アレンシアからすれは、このイケメンは誰なの?…という状態だろう。彼女には全く、見覚えのない人物だったのだ。然も…ハイリッシュに引けを取らない程、美形の青年で。彼女は今迄物凄く緊張しており、この話をフェリシアンヌに伝えなければ…と、責任感で一杯で余裕が持てなかったのだ。彼女が驚くのも、無理はない。
挨拶時も彼は全く喋らないので、アレンシアはその存在を忘れていた。フェリシアンヌの隣に座っていても、誰かが居るぐらいにしか認識していなかった。通常は、彼女の身内か婚約者だろうと考えるだろうが、そういう空気を読める人物ならば、間違いを犯すこともなかった筈で…。前世から我が儘な人物だったけれど、そういう単純な性格が
「初めてお会い致しますね、ノイズ嬢。私はアーマイル公爵家の嫡男で、カイルベルト・アーマイルと申します。私は、フェリシアンヌの婚約者ですよ。」
「貴方が…新しい婚約者さんっ!?…フェリシアンヌ様を溺愛されていて、お似合いだと有名な…婚約者さんなんですねっ!…確かにお似合いです!ハイリッシュ様には悪いけど、貴方の方がフェリシアンヌ様には、超お似合いですっ!」
「………。」
誰だと聞かれて此処で漸く、カイルベルトが名乗ることになった。フェリシアンヌの婚約者だと名乗れば、少々食い気味にアレンシアが身体を乗り出し、お似合いだと連発して来る。フェリシアンヌや家族以外の前では、
お似合いだと連発し、興奮気味に捲し立てたアレンシアは、1人満足げにニコニコする。婚約破棄事件の退場前とは真逆の態度となり、真摯に反省したんだとは感じるものの、こういう無邪気な対応をされると、あまり動じないカイルベルトでさえも、戸惑うばかりである。
「えへへへ。お2人の噂は、庶民達の間でも評判なんですよ。最初の頃は、私やハイリッシュ様のことは、むちゃくちゃ悪く言われました。正直、居心地が悪かったです。顔バレしていないのが、唯一の救いでしたね…。そのうちにお2人の仲睦まじい噂が流れてきた途端に、自分達の噂の方は消えて、超助かりましたよ。今ではもう、私とハイリッシュ様の噂をする人は、誰も居ません。お陰様で、街中も平気で出歩けるようになりました。」
「「………。」」
アレンシアは、それはもう上機嫌という様子で、自分の噂のこと、2人の噂話のことを嬉々として語っている。2人には、何でそんな噂が…貴族だけでなく、庶民にも流れているのか…と、内心でドン引きしていた。使用人達同士の会話が、貴族の家に出入りする商人の耳に入り…という風に、ドンドンと外へ流れて行き、最終的に街の庶民の耳にも入った…というのが、原因である。2人の仲睦まじい姿を見ていた人物達が、結果的に噂を広めてしまったのだった。
「え~と、それで…。今度のヒロインも、貴方なの?」
「いいえ。私は前回の乙女ゲームで、ハイリッシュ様と結ばれたことになっている為、第2弾には一切登場しません。第2弾では、また新しいヒロインが…登場するんです。」
コホンと軽く咳払いしたフェリシアンヌが、話しを元に戻し。新ヒロインが登場するという…アレンシアが語る内容に、フェリシアンヌとカイルベルトの2人は衝撃を受け、暫し…言葉を失うのだった。
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前回からの続きです。愈々、核心の内容に移って行きます。
互いに転生者だと、明かすことに…。前半では、フェリシアンヌが唯の転生者ではないと分かり、アレンシアが大騒ぎすることに…。
第2弾の乙女ゲームが、もうすぐ始まるようですね。新ヒロインは、何処の誰なんでしょうか…。
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