7話 転生者達が目覚める時

 「ところで、お話が変わりますけれども、皆さまは…アレンシア様のことを、覚えていらっしゃいますか?」

 「…ええ。勿論ですわ…。忘れられません…。」

 「…覚えてますわよ。あれだけのことを、されたのですもの…。」

 「……。そうですわね…。お会いしたことは、ありませんけれども…。」


フェリシアンヌの唐突な話題変換に、残りの4人は…少々困惑気味である。何しろその話題が、であり。今は婚約者として仲睦まじくしていても、あの頃は…自分の大切な相手が、アレンシアに盗られそうだったのだから。


此処は、王立学園のカフェテリアだ。フェリシアンヌを始めとした女性4人が、集まっていた。先に発言したのは、同級生のクリスティアである。如何やら彼女は、幼馴染を盗られそうになったことに、未だ…不安を感じていた。そしてもう1人、下級生のミスティーヌも興味がある…と言うよりは、怒りのオーラを纏っていた。アリアーネはミスティーヌの勢いに引いているが、フェリシアンヌは気付かない。


 「……えっ?…アレンシア様と…お会いする約束を、されましたの?」


そう驚いたのは、上級生のアリアーネだ。他の2人はやや驚いてはいたが、好戦的な反応である。アリアーネはこの中では一番お淑やかなタイプで、アレンシアに会うのを…本気で怯えていた。


 「ええ、アリア様。彼女の本心は分かり兼ねますけれど、カイ様も同席してくださるので、それ程ご心配なさらなくとも、大丈夫ですわ。」


フェリシアンヌの返答にアリアーネは心底安心し、ホッと息を吐くが、残り2人はこの答えに満足出来ず、身体を乗り出して来て…。


 「アンヌ。わたくしも、加勢して…宜しいかしら?」

 「アンヌ様、わたくしも一目、あの人にお会いしたいですわ。」

 「クリス、ミスティ。申し訳ありません。今回、アレンシア様はわたくしに謝りたいとのことですの。今回は、ご遠慮くださいませ。」


そう…フェリシアンヌがやんわりと断れば、2人は肩を竦めて仕方がない…という素振りをする。特にミスティーヌは残念そうである。彼女はまだヒロインに会ったことがなく、ヒロインが庶民となった為、今後も会う機会がないだろう。


此処には居ないもう1人、商家の娘ジェシカは、同様に…ヒロインに会いたがることだろう。彼女の家は裕福だが、貴族ではない。王立学園は貴族の学校である為、貴族ではない彼女は、通うことが出来ないのである。


ジェシカと知り合ったのは、乙女ゲームが終了した後だ。タムリードとしか貴族との付き合いがない彼女も、ヒロインとは会ったことがない。彼女の両親は、ヒロインの両親とも面識があるが、ヒロインの父親が商売をしている為、ライバル関係としては親しく出来なかった。あの頃のアレンシアは、庶民を下に見ていたので、どちらにしても…が。


ジェシカは、はっきりものを言うタイプであり、また貴族と庶民の違いの礼儀は、しっかりと弁えている為、自分勝手な考えのアレンシアとは、自分から縁を切るに違いない。例え彼女が商家の娘として、貴族を立てることに慣れていても。


タムリードは男爵家の嫡男だが、家が貧乏過ぎる為、貴族の中では婚約者どころか恋人も、見つけられない。そんな彼と幼馴染で、仲良くしていたジェシカは、彼にずっと片思いしていた。今までも懸命に尽くして来ており、貴族と庶民という身分差の為に、彼女からは…婚約話は出せなかったのだ。彼がアレンシアに振られて落ち込み、彼女が慰めたことで漸く、彼も気が付いたのである。本来ならば、男爵家と言えども彼女は正妻にはなれないが、タムリードに婚約話が来ないという理由もあり、彼女は正妻になる予定だ。


そういう理由もあり、ヒロイン退学後に最近親しくなっていた、フェリシアンヌにタムリードが相談したのである。自分の婚約者になる予定であるジェシカを、貴族のしきたりに慣れさせたい…と。「それでは、わたくし達とお友達になれば、しきたりにも慣れるのではないかしら?」と、フェリシアンヌが提案して、他の3人にも紹介したのである。


元々、フェリシアンヌとタムリードが仲良くなったのも、彼からの謝罪が切っ掛けであった。「フェリシアンヌ様が…私を目の敵にして、虐めるの…。」というアレンシアの言葉を信じ、当時の彼はも…。アレンシア達が廃爵されることとなり、全てが嘘だったと気付いた。別に彼が何かした訳ではないが、彼としてはアレンシアの肩を持ったこと自体に、反省をしていたのだった。


 「そのぐらい…気にされなくとも、大丈夫でしたのに。わたくしはやましいことなど、1つもございませんもの。」


そう晴れやかに言い切ったフェリシアンヌに、タムリードは…彼女を心から尊敬することとなり、男女を超えた友人となったのは…言うまでもない。






    ****************************






 フェリシアンヌは、女子友である4人の令嬢を愛称で呼ぶ。前世で言うところのあだ名だ。アリアーネのことはアリアと、クリスティアのことはクリスと呼ぶし、ミスティーヌのことはミスティで、ジェシカの場合もジェシーという愛称にした。でも、それは彼女達4人も同様で、フェリシアンヌのことはアンヌと呼んでいた。


愛称は1人につき、大体が1つであるけれど、中にはフェリシアンヌのように、いくつか存在する人もいる。フェリシアンヌの場合はアンヌの他にも、彼女の家族はフェリーヌと呼ぶ。そして、カイルベルトからはフェリと呼ばれていた。このようにで、呼ぶ場合もあり。


他の令嬢達の婚約者も同様に、令嬢達からは愛称で呼ばれている。ず、フェリシアンヌの婚約者カイルベルトは、一般的な愛称はカイルであり、本人からはカイと呼ぶように言われた彼女は、勿論そう呼んでいた。


フェリシアンヌの兄でアリアーネの婚約者モーリスバーグは、モーリスと呼ばれているし、ミスティーヌの婚約者アルバルトは彼女ミスティからはアル呼びだが、一般的にはバルトである。クリスティアの婚約者ハウエリートはハウエルと呼ばれ、ジェシカの婚約者タリムードはタリムである。


余談ではあるが、元ヒロイン・アレンシアは、一般的には…シアと呼ばれており、特に仲が良い人物からは、アーシアとも呼ばれ。フェリシアンヌの元婚約者であったハイリッシュは、リッシュと呼ばれていたが、フェリシアンヌは何故か愛称では呼ぶことはなかった…。今になって自分でも振り返えれば、ゲームの強制力で惹かれただけであり、心の奥底で彼女は反発し、愛称で呼ばなかったのかもしれない。それくらい、前世の彼女的には好みではなかったようである。


さて、フェリシアンヌがいない場所、クリスティアのお屋敷にて、女子友4人が集まっていた。別に…フェリシアンヌを除け者にしたとかではなく、元々今日はこの4人だけで、集まる予定となっていた。フェリシアンヌはこの日は用事があり、参加出来なかったからである。


集まった途端に、フェリシアンヌがアレンシアと会うことになった…という話を、唯一聞いていないジェシカに、3人は教えることにした。当然の如く、目をまたたかせて驚くジェシカ。私も会って見たかったと言った後、暫くの間…考え込んでいた。漸く口を開いた彼女は、何か心当たりでもあるのか、こう告げて来て…。


 「もしかしたら、私達も…そのうち、ね…。」

 「まあ…。それは…どういう意味なのでしょう?…何かお心当たりでも、ありまして?」


ジェシカの言葉に反応したのは、アリアーネである。この場でも他の場でも、彼女は高位の身分であり、また…女子友の中では年長ということもあり、一応しきり役なのだ。大人しげの少女でも、こういう時には皆の纏め役となる。


 「…いいえ。そういう訳では…ありません。ただかんと言いますか…。」

 「唯の勘…。実は、わたくしも…嫌な予感が、しておりますのよ。何となくですけれど…。」

 「そういうことでしたら、わたくしも…なのですわっ!」


アリアーネの問いに対して、ジェシカが自分の勘が働いただけ…と言えば、残りの2人のうち、クリスティアが嫌な予感がする…と言い出し、またそれに同意するかのように、ミスティーヌも同意の発言をしてきて。


実は…アリアーネも不安を感じており、この場にいる4人は全員、黙り込んでしまう。平穏な生活に戻ったばかりなのに、また嫌な予感を、この場の全員が持っていた。アリアーネは胸が潰されそうな憂鬱な気分となり、彼女が帰ると言い出したのを機に、4人は解散したのだった。


その日の晩、アリアーネは…夢を見た。それは、途轍もなく…嫌な夢。ヒロインとされ誰からも好かれる美少女が、彼女の婚約者モーリスバーグと恋仲となる夢で。然も…自分は悪役令嬢と呼ばれて…。「何という悪魔なの…。」と夢から飛び起きた彼女は、呟いて。何故ならば、これは…唯の夢ではなく、現実にも起こりるかもしれない出来事なのだから…。


そう…これは、第2弾の乙女ゲームの始まりだと、彼女はぼんやりした頭で考えていた。実は、彼女もまた…転生者だったのだと、漸く記憶が戻った瞬間でもあり。この世界が、乙女ゲームとよく似た世界でもあることに、気付いた瞬間でもある。彼女が前世で夢中になっていた、乙女ゲームの世界だと…。


如何したら、良いのかしら…。フェリシアンヌ、アレンシア…。ずっと何処かで聞いたような、気がしておりましたけれども、彼女達も乙女ゲームのキャラでしたのね…。そして、第2弾の悪役令嬢としては、わたくしも…登場致しますのね…。






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 フェリシアンヌと女子友達(ジェシカ除く)の会話がメインです。後半には、主人公を除いた女子友達の会話に、切り替わります。


今回、アレンシアと会うことを告げたフェリシアンヌに、他の女子友達の反応は…という内容でした。また、愛称についての説明も加えました。今後は、愛称呼びが頻繁に使用される予定です。


続編の新キャラであるアリアーネが、転生者確定となりました。フェリシアンヌの味方が増えそうな予感…。



※此方の都合で、副タイトルを変更しました。

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