第5話 僕がいる場所

 一方、今の僕はというと、座り心地の悪いパイプ椅子に座らせられ、そんな彼女をじっと見つめている。明かりを消した薄暗い部屋で、観客達の無言の気が満たされているこの空間で。

 しばらくの間、硬い背もたれに身体を預けていたせいか、なんとなく身体がだるい。ここが映画館だったらなと思う。

 この部屋にいる全員が無言で画面を見つめていて、コロナ禍のこんなときだから、互いの座っている場所の距離もしっかり取っているのに、なぜかまるですぐ隣りに座っているかのような圧迫感があって、正直、居心地は悪い。

 けど、僕を惹きつけてやまないものが目の前にあるせいで、僕の身体は椅子にピタっと張り付いたみたいに動かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る