おはよう
中道商店街のパティオの唯一の出入り口であるシャッターを出て、右に建つビルの二階以上は住居になっていて、一階には
息子の
──ダダダ……
仁と保は、いつも競いあうように最上階の自宅マンションから階段を走って降りてくる。朝の階段降りレースだ。
仁に言わせると体力作りの一環なのだが、保はよくわかんないが付き合ってあげている、仁があまりにも嬉しそうだから…。
──ダダダ…ダダダダダダ……
──バン!
エントランスに降り立つと自動ドアのステップを踏む。
今日は保が先に踏んだ。
「うわぁ! またやられた」
「父ちゃんおっそー」
仁は悔しい。でも負けるのはいつものことだ。夜の仕事で体力を使い切っている親父は、元気満タンの小学生の体力には到底勝てやしない。
自動ドアから二人して外に出ると、ももとさくらが待っている。
「たもっちゃん、仁さんおはよう」
ももがそういうと満面の笑みになる仁。
「ももちゃーん、さくらちゃーん今日も保をよろしくねー」
「おはよう! 」さくらも挨拶する。
「おはよう、行こう! 」
保がそういうと、二階三階の部屋を借りている仁のお店で働くキャバ嬢たちが数名寝巻のままでバルコニーに出てきた。
「きゃーたもっちゃん、いってらっしゃい」
口々に声をかける。
仁はかえでと同級生で幼馴染、32歳の精悍なタイプのイケメンだ。その子どもの保はやはりイケメンの素質を開花しつつある。そのため昨今ではキャバ嬢たちのアイドルと化していた。
すると仁は大声をあげる、いつもの事だ。
「ようし、今日もいくぞーせーのー」
『勝つべし!!! 』
その場にいる全員で、声を揃えると拳を天に振り上げた。もも、さくら、キャバ嬢、保も全員だ。
『いってきまーす』
『いってらっしゃーい』
子どもたちの元気な声に、全員で応える。
と、隣のビルの
仁とタイプは違い、優しいタイプのイケメンだがまだ独り者だ。
朝のこの時間、店の前を掃除してコンビニに行くのが日課だ。
「お、もも、さくら、保、いってらっしゃい」
『おはよう』3人が声を揃える。
「伸さん今日も二日酔い? 」保がいう。
「ああ、頭痛てぇや」
「飲み過ぎに気をつけてねー」
「ありがとうよ」
3人は伸の店の前を走り抜けていった。
「ふん、このウワバミ男は体だけは丈夫だから、殺したって死なない! ガキの頃から食えない奴だったからな」
だが、
「なんだと仁、独り言はもっと小さな声で言いやがれ、久しぶりにボッコボコにしてやろうか? 」
ホウキとチリトリを投げ捨てると、仁を睨みつけた。仁も負けじと睨み返す。この二人は高校時代相当やんちゃをしていた。向こうっ気も腕っぷしも強いのだ。
「うっせー伸、ボッコボコにされてたのはお前だろうが! 最後にはいつも辞めてーって泣き言言いやがってよ」
「なんだと仁、やるのかこの野郎」
「おうよ伸、上等だ」
と、バルコニーから二人のやりとりを見ていたキャバ嬢たちが声をあげる。
「きゃー伸さん私をボッコボコにしてー」
「いやいや、私ー今から部屋に来てー」
「ダメよ伸さんは私のものよー」
「伸さんにならボッコボコにされたいわー」
「早く部屋まできてー」
イケメンのホストクラブの社長は、キャバ嬢たちにかなり人気だ。
黄色い悲鳴が湧き上がると、伸はそそくさと落としたホウキとチリトリを拾い、真っ赤になってエントランスに駆け込んだ。
伸は女好きのくせに
仁はそんなキャバ嬢たちに向かって仁が顔を上げる。
「俺の方がいい男でしょう、社長の俺が相手にしてやろうか、仕方ない、私の胸に飛び込みなさい」
キャバ嬢たちは一斉に冷たい視線を投げかけると、バルコニーのドアを締めて中に入ってしまった。
「……冷たいのね」
仁はそう呟くと、肩を落としてとぼとぼエントランスに戻っていった。
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