行ってきまーす

『いってきまーす』


 玄関から二人が勢いよく出てきた。ももがさくらを幼稚園まで送っていき、その後に小学校へ登校するのだ。

『いってらっしゃーい』

 かえでと茂が二人して玄関で見送った。

 二人は庭と広場を抜けるように作られた門までの道を、手を繋いで駆け抜けていく。朝の日差しがキラキラ眩しい。

 門のそばまで来ると、ももはリモコンのスイッチを押す。


 すると、

 ──ゴゴゴ……


 丁度乗用車が一台通れるくらいの幅の重厚なシャッターが開いていく。

 ももとさくらは開ききる前にシャッターをくぐり外へでる。そして外にでると再びリモコンを押す。

 すると、シャッターの開閉が止まり、ゴゴゴ……今度はゆっくり閉まっていく。

 シャッターはビルとビルの間に挟まれるようにして作られている。

 両方のビルの壁にレールが取り付けられ、そこをシャッターがスライドする仕組みだ。勿論、どちらのビルもごんちゃんの持ち物だ。

 シャッターをくぐった二人は、ビルとビルの間を20メートルほど進んで通りに出る事になる。

 初めてこの辺りに来た人には、ビルの奥に小さな公園のような大きさの庭があって、そこに洋館があるとは分からないだろう。

 なぜなら、この敷地の西側には10階建の町役場が建てられ、北側には町の備蓄倉庫が建てられ、東側には10階建のオフィスビル、南側には門に隣接した10階建の二つのビルが建っているのだ。

 つまり、敷地の周りがすっぽりビルに囲まれて外からは一切中の様子がわからない。

 そう、中庭のような作りになっているのだ、だから地元民はこう呼んでいる。


 ──中道商店街のパティオ。


 それだと陽が入らないように思えるが、そこはごんちゃん、四方の建物の屋上にコンピューター制御の反射板を設置して、中に光りを取り込む仕組みをつくった。反射板は上下左右全方向可変自在なだけでなく、凸面鏡や凹面鏡にする事もできるのだ。

 だから、明るくするのも暗くするのも自由自在。

 普段は陽あたりよくしてるのだが…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る