第二章 中道商店街の人々
いつもの朝
今はとある日の朝7:15。
神馬茂ファミリーは茂パパとかえでママ、ももとさくらの四人で二階建ての一軒家に住んでいる。かえでママのお腹には予定日が近い三人目の赤ちゃんがいる。
二階の南側にある部屋が、ももとさくらの部屋だ。
部屋数は家族の人数以上あるのだが、まだ小さい二人は二段ベッドを置いて、同じ部屋を二人で一緒に使っている。一つだけある窓にはまだカーテンが閉められていた。
「ももおきて、ごはんごはん! 」
薄暗い部屋の中でさくらが二段ベッドの階段を上がって、ももを起こしにきた。
こういうところは、年長組のさくらの方が小学四年生のももよりもしっかりしている。
目覚まし時計のアラームを消して先に起きるのはいつもさくらでももを起こしにくる。
以前はももの枕元に目覚まし時計を置いていたのだが、アラームを消すのは消すが、全く起きられないので、今はさくらの枕元が定位置になっていた。
さくらはすっかり着替えも終わって幼稚園のお支度も完璧に終わらせていた。
目をあけて壁にかけられた時計を見るもも。
「えっ、わぁもう7:15だ。早く着替えなきゃ」
ももはそういうと、布団を放り投げ、枕元に置いておいた着替えを手に取る。さくらはももを起こして二団ベッドの階段を降りると、カーテンに向かって小さな手をチョンチョンと動かした。
すると、しゅるるる……一枚がけのカーテンが弾かれて窓の半分まで開いた。
「うーん、もう一回」
チョン、手を動かす。シャッ! また少し動くカーテン。
精度の問題だ、カーテンを弾いて一度で開けてみたいのだが、念の力が上手くカーテンに伝わらないらしく、まだまだ、練習が必要みたいだ。
「えーっと、ほい」
チョン! シャッ!
ようやくカーテンが全開になると朝日が燦々と部屋に射し込んできた。
満足気な表情になるさくら。
「えへへ、さくらは先に下に行ってるよ」
「うん、すぐ行く」
さくらは走ってドアに向かうと部屋から出て行った。
ダイニングでは父親の茂がテレビから流れている朝のニュースを見ていた。そして、さくらがくると挨拶をかわす。
「さくら、おはよう」
「パパおはよう、ままー」
キッチンに立って料理をしているママのところにかけていくと、後ろからムギュとしがみつくさくら。
「ママおはよう、赤ちゃんもおはよーねー」
さくらは大きいお腹を小さな手でスリスリ触った。
「はい、おはよう、赤ちゃん元気ですよ昨日もキックしてたよ」
かえではそういうと料理の手を休め、さくらの手を包み込む。
「うふふ、楽しみですねー」
「さあ、ごはん、ごはん」
「うん」
さくらはダイニングテーブルの自分の席──子ども用に座面を高くして、階段がついた椅子によじ登る。
食卓には目玉焼きやサラダなどが並べてあった。
茂はテーブルを挟んで反対側の椅子に座っていた。
「あれ、ももは? 」
「着替えているよ、もうくるんじゃない」
と、シュパッ! さくらのとなりの椅子に忽然とももの姿が現れた。こういうとき瞬間移動は便利だ。
「パパ、ママおはよう」
「ああ、またやった……おはよう」茂は続ける。
「外では使うなよ、誰が見てるかも知れないから」
「わかってるー」
ももとさくらの家は中道商店街のアーケード街に隣接した、こじんまりとしたビル街の真ん中に建っている。
真っ白な洋館で、バルコニーがあり、一階にはデッキがあり、出窓や木製の重厚な扉など、それはそれは美しい建物。
これは、ごんちゃんの提案でももが生まれる少し前に建てられた。
しかし、ただの建物じゃない……ごんちゃんのアイデアもしくはイタズラ心がいっぱい詰まった要塞でもあるのだ。
でも、ごんちゃんはここには住んでいない。町の外れに大きな畑があって、その横に建てられた、古民家、そこが代々伝わる神馬家の本家であり、妻のすみれおばあちゃんと二人で住んでいる。ごんちゃんは畑仕事をしながら、町長の職務をこなしている。
ごんちゃんのもう一つの職業である不動産屋は、社長の座を息子の茂に譲り、自分は会長になり、実務には口出ししない事にしている。
──さてその美しい洋館は、サッカーのピッチくらいの広さの敷地の隅に建てられていた。
敷地は四方を林に囲まれて、一部は畑として使い、花壇や芝生の広場が作られている。芝生広場は敷地の半分ほどの大きさだ。
だが、その姿は簡単に見ることができない…。
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