乱闘
──ドン!
賽銭箱の前に突然、一枚の畳が横になって落ちてきた。
「なんだこりゃなんで畳が落ちてくんだ」
月明かりに照らされた畳を3人が凝視すると、可愛らしい二つの顔が、畳の縁からにょきっと現れて微笑んだ。
ももとさくらが畳を衝立にして立っているのだ。畳の裏には封をされたままのカラーボールの箱が一箱置かれている。
『ひぇぇぇ、でたー』
怯む盗人をよそに、ももは封も開けずにカラーボールを瞬間移動させて取り出すと、畳の縁にのせた。そして、さくらが念を込めると、カラーボールは勢いよく発射され親分の右頬をかすった。
びょん!
「げげげ、な、何がおこっている? 」
さっぱり見当がつかない盗っ人三人衆。
「うーん、ちぇっ外した」残念そうなさくら。
さくらは物を弾け飛ばす能力を鬼王様から授かってる。しかし、ごんちゃんから危機を感じた時以外は使っちゃいけないと言われていたので、普段は人前では二人とも能力を封印していたが、これこそ、鬼王神社の危機だ。
ももが次々とカラーボールを畳の縁に、手も使わずのせると、さくらが次々と盗っ人三人衆に、手も使わず打ち込む。
──シュパパパパッ!
「ひぇ」
「うわぁ」
「ぎゃっ」
さくらのコントロールは次第に正確になってきて、三人衆の手、足、頭、顔に当たると弾けて、中の蛍光塗料が飛び出して発色する。
逃げ惑う、親分、一、二、そこに連射式の機関銃ごとく降りかかるカラーボール。
こうなるとそこは幼稚園と小学四年生、お遊戯でもしてるように興に乗って、手を休めない。
──バババババ!
キャハハ!
「ひぇ」
「うわぁ」
「ぎゃっ」
逃げ惑う三人衆。
そしてほぼカラーボールも無くなりかけた時、ごんちゃんの声が響いた。
「もういい、もういい、大人しくしとれと言ったのに……」
ももとさくらはカラーボールの銃撃をやめる。と、5名の黒い影が木から飛び降りてきた。
忍者の黒装束を身にまとい、黒頭巾を被って目だけが光る屈強な体つきの四名、そして、同じ格好をしているごんちゃんだ。
これぞ、この町の防犯の要、影の氏子衆だ。各分隊にわかれそれぞれの分隊が地域ごとに、この町の防犯に携わっているのだ。総数2000名あまり、ごんちゃんを中心に組織された、精鋭たちである。
警察を影から支えて、この町の安全に貢献している集団なのだ。
つまり、少々実践的な防犯協会だ。
黒装束の屈強な3名は、蛍光塗料で全身が緑色に発色している盗っ人三人衆を、素早く羽交い締めにした。
そして2メートルはある、黒頭巾から見えている肌も黒い男が、ごんちゃんに言った。
「へい、ごん…いやいやボス! どうしやショウ」
この男は、米国陸軍精部隊出身のさくらのクラスメイト、ボブの父親マックだ。来日20年、日本人の妻を持ち日本酒バーを経営している。
「手裏剣」
「ガッテン承知」マックはそういうと卍型の手裏剣を懐からだした。
満月の光に、研ぎ澄まされた先端がキラリと光った。
そして親分の首根っこを掴み、その頬にチクリと先端を当てる。
「うわぁ! 」悲鳴をあげる親分。
ごん……いや、影の氏子衆総隊長は踵を返し、ももとさくらのところに近寄り、二人の頭を撫でた。
「上出来上出来、さあ、お片づけして帰りなさい」
『うん! 』二人は嬉しそうに微笑んだ。
そしてももは、目を瞑って念を込めた。
すると、
──シュッシュッシュッ!
カラーボールの残骸はダンボールの中に戻り幼稚園のゴミ置場に移動し、境内に飛散した蛍光塗料は下水道へ移動、畳を家に戻すと、さくらの体を抱きしめて消えていった。
それとともに、頭上にぷかぷか浮いていた石球も、ほんのり光ると、神殿の中へと飛び込んだ。
バタン! ガチャ! ──扉を閉めて定位置に戻り、落ちていた南京錠を自らかけると、何事もなかったように静まった。
『うっ…&\%#{#%^?><#!』
悲鳴にならない悲鳴を上げる盗っ人三人衆。
自宅の和室では、茂が戻った畳を確認して呟いた。
「お遊びは終わったようだ」
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