さあ俺たちの時間だ
11:00にきっかりになって盗っ人三人衆はそろりそろりと境内を抜けて神殿に向かった。
昨日の昼間に下見に来ているので、神殿に鍵がかかっていることは分かっていた。
しかし、二は鍵の緊急業者を経験していたので、カバンにいれた鍵開け七つ道具を手にしている。
一は元建設現場で働いていた経験があり、手にはバッテリー稼働の電動工具を持っていた。鉄を切ることが出来るサンダーと呼ばれる工具だ。
しかし、電動工具は音が出る。できることなら使いたくなかった。
──賽銭箱の横を抜け、神殿の縁を上り、真っ赤な木製の格子扉に近づく。
「おい二やれ」周りに誰もいないのを確認すると親分は言った。
「へい」そそくさと前に出て扉の中央に備え付けられている神殿の鍵を見つめる。
巨大な南京錠だ。
「親分任しといください、チョチョイのちょいだ」
と、二が南京錠を手にするとカチリ、妙な金属音がした。
「おや」
南京錠が勝手に外れている。
「あきました」
「はえーなおい、そんなにお前は腕があるんか?」
「いえね、勝手にあきました」南京錠を取り外し手に持っている二。
「ほらね、取れちゃった」
「勝手に……どうゆうこっちゃ? 」
と、一は扉を動かす。ギギギ……格子状の真っ赤な扉が動く。
「親分、動きまっせ」
「へ……」
── ── ── ──
その頃、権三の息子の神馬茂は自宅のリビングでコーヒーを飲んでいた。身重の妻かえでは、既に寝床についている。
茂は35歳、かえでは32歳、二人の間には幼稚園児のさくらともう一人、小学校四年生になるももという娘がいる。
茂はなにやら神社からの波動を受けていた、そして、キーンという耳鳴りがすると、今まさに神殿に入ろうとしている不審な3人のイメージが頭に浮かんできた。
鬼王神社の宝玉から発せられたメッセージに違いない。
神馬一族は鬼王様からのメッセージを受け取れるのだ。
「はて、何者? 」
茂が静かにそう呟くと、背後で気配がした。
ハッとして振り返ると、そこには、上下ジャージに着替えたももが立っていた。
「もも、どうしたこんな時間に……」
「さくらのところに行ってくるね」
「もも、さくらって、今日はお泊り会だぞ」
「鬼王神社の緊急事態でしょ」
「もも、鬼王様からの発信が見えたか? 」
「もち」
「そうか……」
「うん、さくら一人じゃ心配だから」
「しかしな……」
ももは茂の返事も聞かず、玄関に行くと靴を履いて外に飛び出して行った。
「おい、もも、おーい」
呼び戻そうとしてももういない。
リビングに一人残った茂は、スマホを手にすると、権三に電話をかける。
「もしもし、父さん、ももがさくらのところに……」
「そうか、行ったか、心配すんな任せとけ」
「はあ、よろしくお願いします」
茂は電話を切ると、ゆっくりとコーヒーを飲んで呟いた。
「心配なのは、むしろ不審者……」
── ── ── ──
盗っ人三人衆は神殿の扉をおそるおそる開けた。
通常、神鏡の置かれている神棚の真ん中には、紫色の小さな座布団の上に、ソフトボール大の石球が置かれ、盗っ人三人衆が中に入ろうとすると、神々しく光りはじめた。
「ひ、光ってる、間違いなく本物だ」
「へい」
「へい」
と、石球はふわふわ浮かびあがる。
「へ」
そして猛烈な勢いで三人に向かってくるとその風圧で三人衆の体は吹き飛ばされ、
──ガランカラン! ガランカラン!
盗っ人三人衆の身体は賽銭箱を飛び越え、境内の石畳のど真ん中に落っこちた。
ドン、ドン、ドン!
『いってー』
石球はその三人の頭上でプカプカ浮いている。
『どうなってんだ? 』
── ── ── ──
その頃、ももはさくらの枕元にどこからともなく現れこっそり立つと、さくらを起こした。
他の園児や先生たちはすっかり眠っている。
「さくら、さくら、起きて」
「う、うーん、誰? 」
「ももだよ、お姉ちゃんだよ」
「あれ、お姉ちゃんどうしたの? 」
「さくら、行くよ出番だよ」
「えっ? 」
「わかるでしょ……」
しばし考えるさくら。
「うーん、そういう事? 」
ももは微笑んで頷く。
「でもごんちゃんが大人しくしてれって……」
「鬼王神社の危機だよ」
「うん分かった、お姉ちゃん連れてって……」
「うん、行こう」
ももはさくらを抱きしめると、目を瞑った。
そして、
──シュパッ!
二人の姿は一瞬で体育館から消えた。それと同時に、幼稚園倉庫に仕舞ってあった、防犯用のカラーボールが100個入りの箱ごと消えた。
時同じく、茂が妻の寝ている和室に行くと、畳が一枚音も無く消えた。
──シュパッ!
「あー始めた」
茂は当たり前のように呟いた。
ももが鬼王様から授かった能力は、瞬間移動だ。思ったものを一瞬で思った場所に移動させる事が出来るのだ。
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