小林麻耶さんのケース

ネコ エレクトゥス

第1話

 僕はほとんどテレビを見ない。見るのはNHKの衛星放送の深夜番組ぐらい。今僕の見たいような番組はすべてそこに追い込まれている。だから日本の芸能界なるものとはほとんど接点がない。僕の日本の芸能界なるものとのわずかな接点、それはお昼ご飯を食べに行ったときに置いてあるスポーツ新聞。それで今日芸能人として活動している小林麻耶さんの一件を知った。

 ところで彼女には歌舞伎俳優の海老蔵さんと結婚した妹がいて、どちらが麻耶さんなのか僕には確信がない。間違ってたらごめんなさい。


 スポーツ新聞の教えてくれるところによれば、最近彼女は奇行が多くなり所属事務所を解雇されたという。そして彼女の裏にはなんだか胡散臭い旦那というのがいるらしい。細かいことについてはいろいろなところで取り上げているので僕なんかの説明は無用だと思う。

 ただひとつ目を引いたのは彼女が膣の中にパワーストーンなるものを入れるある種の健康法にのめりこんでいて、周囲にも勧めていたとの記事。それで分かった。彼女は単純に子供が欲しかったのだ。

 若い時からスポットライトを浴びて生活する日々。当然自分自身に自信もあっただろう。自分の持っている能力をさらに開花させたい。そういう生活を続けていたとしたら女性として何を犠牲にしなければならないか。子供を産むこと。それは自分の足を引っ張る、と彼女は思っていた。その一方で子供を欲しいという女性として普通の願望も捨てきれない。僕が間違っていなければ確か彼女は40歳ぐらい。子供を産むには微妙な年齢に差し掛かってきている。

 それと並行して彼女は自分自身と世界の間にある種の断絶を感じている。なぜ私にとってイエスであることを世界はノーと言うのか。これについては彼女を責めるわけにはいかない。同じことを感じている人は多数いる。僕らの世界が歪な状態にあるのは間違いない。その歪な世界から正しい世界へと自分を導いてくれるのが彼女の怪しげな旦那であり、実際に正しい世界との接点を保証するものが例の膣の中のパワーストーンということになるわけだ。これを書いてて思う。彼女の発想、行動は非常にオウム真理教的だ。今僕らはそんな時代にいる。

 彼女の何がおかしいのかというと、間違っているのは自分かもしれないという発想がないこと。実は彼女の勘違いは単純に子供を産むことによって解決される。彼女が断絶していると感じている世界とのつながりも簡単に回復される。普通に子供を育てて生活に没頭している同年代の女性と、膣の中に石を入れて世界とのつながりを得ようとしている女性、果たしてどちらが幸せなのか。

 ただ問題は彼女個人の問題というより、オウム真理教的なものを呼び寄せる僕らの時代ということになるのだろう。彼女同様に満たされない何かを抱えている女性は相当いると思う。


 しかしスポーツ新聞もたまには役に立つものだ。競馬の予想以外は。

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