第11話 決戦の地へ 2
汽車が到着した。
サクラたちは汽車に乗り込むと、4人掛けのボックス席に座った。
「サクラは必ず来ると分かっていたから、先に準備は始めている」
ムサシは勝ち誇ったかのように笑い、トリナは「ふぅ」と溜め息をついた。
「ムサシさまったら、そうなのよ。あなたは必ず来ると理由もなく言い張って、既にスゴい人数を使って準備を始めていたの。本当に来てくれて良かったわ」
「これで来なかったら、どうなっていたことか」とトリナは蒼い顔で呟いた。
「実際来たんだから、もういいだろう」
ムサシは豪快に笑った。
「あの?」
サクラはムサシを見た。
「どうして私が、必ず来ると思ったんです?」
「お前にも、分かるだろう?」
ムサシがグッと身を乗り出してきた。
「俺はお前に出会ってから、頻りに向こうの世界から呼ばれている気配がする。お前もそうだろう?」
ムサシの言葉に、サクラはハッとなる。
「分かります!だから私は来たんです」
自分の胸に右手を当て、サクラは強い口調で言った。
ムサシは頷くと急に真顔になり、姿勢を正して座り直した。
「さて、サクラ。ここからが本題だ」
ムサシの圧力に、サクラも姿勢を正す。
「お前の魔剣の力を教えて欲しい」
ムサシの言葉に、サクラはギクリとした。無意識に自分の剣を抱き寄せ、チラリとライセの方を見る。
ライセさん。ここまで全く存在感が無かったけど、もちろんずっとサクラと一緒にいてました。あしからずご容赦ください。
「俺にはサクラの剣が普通じゃないことは分かっている。だからこの先チームを組むにあたって、その剣の力を把握しておかなければならない」
「頼む」とムサシは頭を下げた。
(ライセ、どうしよ?)
「問題ない。この男は信用出来そうだ」
ライセの言葉にサクラは頷いた。
「ムサシさま。説明するよりも実際に見てもらった方が早いと思います」
サクラは微笑むと、ライセに向かって手を伸ばす。ライセがその手を取ると、ふたりは瞬時に入れ替わった。
見た目は、何も変わらない。
実際トリナには、何が起きているのか全く分からない。しかし流石にムサシは違った。
(何だ?気配の質が変わった?)
「俺は、ライセといいます」
見た目も声もサクラと何も変わらない。しかしムサシはライセの実力を瞬時に見抜く。
「ハハハ!素晴らしいぞ!」
ムサシは声を荒げて笑った。
「正直予想以上だ!お前程の手練れに出会えるとはな」
ムサシはグッと身を乗り出す。
「ライセと言ったな。サクラには悪いが、お前がずっと表に出ておくことは出来ないのか?」
「俺やサクラが危機と感じている状況でないと、そんなに長時間は持続しないようです」
ライセの言葉に、ムサシは「残念だ!」と落胆した。ムサシのそんな姿にライセはニヤリと笑う。
「その言葉は、サクラの才能を理解してから言ってください」
ライセは、サクラの
聞き終えたムサシは、流石に驚愕した。
「そんなバカげた才能がこの世にあるのか?」
「何の修練もせずに、ムサシさまと同等の実力者ですって?」
トリナも開いた口が塞がらない。
「私にそんな才能があったなんて」
サクラ自身も、あまりの話に驚きを隠し切れない。
「お前、サクラか?」
ムサシは「ややこしいな!」と頭を掻きむしる。
そんなムサシを横目にライセはサクラに耳打ちをする。
「あの、ムサシさま」
サクラが再び姿勢を正す。
「ライセの剣技は、まだ私の中に眠っている状態なんだって。だからムサシさまにそれを引き出す稽古をつけて貰えって」
サクラの言葉に、ムサシは「ククク」と笑った。
(そうか。サクラの実力を測る物差しとして、この俺が選ばれたって訳だ)
そしてこの話には、ライセの業に興味のあるムサシにもメリットがちゃんとある。
断る理由がない。
「いいだろう、サクラ。お前に稽古をつけてやる」
***
「この娘が、月下剣士だと?」
境界軍の長官は、目を白黒させて大いに驚いた。
サクラたちは境界軍の砦に到着すると、真っ直ぐ長官室に向かった。入隊の辞令を受けるためである。
「こんな娘を連れて、本当にこの任務が完遂出来るのか?」
「問題ない」
ムサシは自信に満ちた顔で頷く。
「向こうの砦が完成するには、まだ時間がかかる。襲ってくる鬼どもを撃退しながら、使いものになるように稽古をつけてやるさ」
「これから稽古をつける、だと?」
「何を考えているんだ…」と長官は崩れるように自分の椅子に座り込んだ。
「大丈夫だ、任せておけ!」
ムサシはドンと胸を叩いた。
「境界防衛隊のこの先の未来を含めたとしても、俺たち以上のチームは誕生しない」
ムサシは豪快に笑うのであった。
***
サクラは生まれて初めて異世界「炎」に足を踏み入れた。
辿り着いたそこは、何処かの部屋であった。
次元の歪みの向こう側は、見渡す限りの広い世界が広がっていると聞いたことがあるので、なんだか違和感を感じた。
ムサシは皆を連れて外に出た。
外に出て初めてサクラは理解した。次元の歪みを中心に大きな砦が建造されつつある。
その時ふわっと優しい風が吹き、サクラのセミショートの毛先を揺らした。サクラは風の吹いて来た方向に顔を向ける。
青く澄んだ広い空。遠くに連なる山々。見渡す限りの草原の向こうには青々とした森林の姿が見える。
美しい世界が広がっていた。
「ここが異世界『炎』」
サクラは息をのんだ。
ライセもある意味衝撃を受けていた。しかしサクラとは少し異質なものであった。
(なんだここは?見覚えがある気がする)
ライセは困惑しながら辺りを見回していた。
「どうだ!素晴らしい世界だろう」
ムサシがサクラの横に立った。サクラはムサシを見上げると「うん」と頷く。
「これから俺たちで、異形の鬼からこの世界を取り戻すんだ!」
ムサシの言葉にサクラは「え?」となる。
「私たちだけで?」
「大丈夫だ!俺たちになら出来る。俺たちに出来なければ、この先誰にも出来やしない!」
ムサシはサクラの背中をバンと叩いた。あまりの衝撃にサクラは「うっ!」と二、三歩よろめいた。
「期待しているぞ、サクラ!」
ムサシは豪快に笑った。
***
ムサシは次に砦の中を案内してくれた。まだまだ建造中であり、いろいろ雑然としている。
境界軍の魔法士たちの援助もあり、通常よりも早いペースで作業が進行している。いずれここを拠点としてサクラたちは戦っていくことになる。
「サクラ?あなた、サクラじゃない?」
不意に呼ばれ、サクラは振り向いた。
白い安全ヘルメットを被った、細い縁なし眼鏡の少女が立っていた。
「ナナカ?どうしてナナカがここに?」
「それはコッチの台詞よ!」
ふたりの少女の再会を、異世界の太陽が優しく照らしていた。
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