第31話 〈番外編〉ホストなのになぜかお客さんに恋をしてしまい困ってます
その日、愛衣さんの友達のルミさんが、別の女の子を連れてデビルジャムへ遊びに来てくれた。僕とスバルさん指名でVIPルームという時点で、なにか聞かれそうな予感はかなりしていたのだが、やっぱりそれが当たってしまった。
乾杯するなり、ルミさんが身を乗り出して僕に尋ねてきた。
「ちょっと夕陽くん! 愛衣さんと付き合ったって本当なんですか!?」
「ああ、本当だよ」
なぜか僕ではなくスバルさんが答えている。ちょ、ちょっと待ってください! と言って、僕はルミさんの連れのミホさんという女の子の方をちらりと見る。
「スバルさん、いちおう店内なのに、そんな話していいんですか」
「大丈夫じゃない? それに、外には聞こえないようにVIPルームとってくれたんでしょう、ルミちゃん」
「一応そういうつもりで……。ミホちゃんも同じキャバクラの子だし、事情はだいたいわかってるから。愛衣さんとも仲がいいんですよ」
「……ならいいんですけど」
ルミさんの瞳は好奇心で輝いているけれど、それは野次馬心というよりは祝福によるものだということがわかるので、嫌な気分にはならなかった。
「そうそう。というわけで、晴れて、愛衣ちゃんと夕陽くんの交際がスタートしたってわけです!」
スバルさんのテンションが高い分、僕は赤面して俯いてしまった。
もちろん女性と付き合うことが初めてなわけではない。チャラついていたわけではないけれど、それなりに経験もしてきたつもりだ。
それなのに、愛衣さんのことになると、まるで中学生の初恋みたいに一喜一憂してしまう。
「愛衣ちゃん、そういうことはっきりとは言ってくれないから。でも幸せオーラが出まくりで、もしかして夕陽くんと……? って聞いてみたら、まあそんな感じ、と言って濁されちゃって」
事実確認できてよかった、本当に嬉しい! と言って、ルミさんが笑った。
「夕陽くん、ずっと愛衣ちゃんのこと好きだったもんね。僕も嬉しいよ。ところでもうお泊まりとかしたの?」
「スバルさん!!」
王子様のような完璧な笑顔を浮かべて、スバルさんが斬り込んでくる。
これってセクハラじゃないのか?
そう思うものの、目の前ではルミさんとミホさんも僕の返答を期待して色めき立っている。
「……ご想像にお任せします」
僕の答えに、なんだよつまんなーい、と言ってスバルさんが唇を尖らせている。
そんな間抜けな表情をしていても最高に美形だ。ずるい。
ルミさんたちは、愛衣さんのことを配慮して二人の間のことを話さない僕を紳士的だと言って褒め称えてくれた。
……本当はした。めちゃくちゃした。というか今日も愛衣さんが僕の家に帰ってくる。
もはや一瞬でも離れていたくないくらいの気持ちだ。
指一本触れない宣言をした一日目をのぞいて、やっぱり僕は自制なんてまったくできず、彼女はそういう僕を嫌うかと思ったものの、案外従順に愛されてくれるところがまた可愛くてたまらない。
「……そういうスバルさんは優也さんとお泊まりしてないんですか?」
何気ないふうを装って反撃に出てみた。僕にそういう趣味はないが、彼らの交際の進捗には俄然興味がある。
「してるよ?」
スバルさんは存外あっさり答えた。その瞬間、ルミさんとミホさんが立ち上がらんばかりの勢いで歓声をあげる。ミホさんもそっち側だったか、と僕は理解する。優也さんのことを配慮せずプライベートなことをバラしてしまうスバルさんは紳士的ではないものの、この際そんなことはどうでもいい。
「えっ、じゃあもう……?」
僕がそう言ったとき、ルミさんが口元を両手で押さえ、頰を赤くして嬉しそうな顔をする。
ミホさんはなにかを拝むようなポーズをとっている。
瞬間、なにかを察したスバルさんが真っ赤になって両手を振った。
「あっ、待って! 違う違う、そういうことは、してない!」
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