第30話 ホストと秒速で仲直りしたらしい。



スバルは静かに鼻をすすり、赤い目で俺の方を見て、にっこりと微笑んだ。



「……優也、そんなに僕のこと好きでいてくれたんだ。なんか、嬉しくて元気出てきたなぁ」

「そうか、それは何よりだ」

「もう、今日はこのまま優也んちに泊まっちゃお!」

「はあ!? 明日も仕事なんだけど。帰れよ」



とうに終電は終わっていて、今はもう夜中もいいところだ。お互い早めに寝たほうがいい。そんな俺の心ない言葉に、スバルの目尻がつり上がる。



「あのさ。こんな日に家に帰って、ひとりで眠れると思うの!?」



逆ギレをされ、こんな日ってどんな日だ……? と考えながら狼狽えていたら、スバルが無言で抱きついてきた。

怒ったり甘えたり、いったいなんなんだ、と思ったが、頭を撫でてやっているときようやく察した。



あー、そういうことね。こんな日っていうのは、喧嘩をして、仲直りできた日っていうことだ。

確かに、ひとりで寝るのはちょっと寂しいかもしれないな。



「……優也、大好き。ちゅーしよ?」

「ん」



スバルの顔が近づいてきて、長いまつ毛が俺の頬を撫でた。

あー、こいつが好きだな。思ったとき、一瞬だけ触れ合った唇が離れる。



「ね、もっかい」



スバルがそう言って、俺の背中に手を回して来た。再度キスをしたら俺はなんとなく離しがたくなって、気づいたら舌を入れていた。スバルは一瞬だけ驚いたようだったが、すぐに力を抜き、応えてくる。



頭がぼーっとしてきた。本当にいつの間に、こんなに好きになってしまったんだろう。



口の端に垂れた唾液を舐め、スバルが惚けた顔で馬鹿なことを言い出した。



「ごめん、僕、なんか……興奮してきちゃったかも」

「?!……いやいや離れろよ」



両肩を押しやろうとしたのにかわされ、そのまま強行突破された。こういうとき、華奢でも女顔でもこいつは男なのだと実感する。



「優也、いいにおいがするんだもん……僕、好きすぎて死んじゃいそ……」

「っ、ん……」

「…んん…らいすきだよ……」



こんなにキスしたことなんて今まであっただろうか。スバルはとにかく、好き、という言葉を繰り返した。

嬉しくて愛おしくて頭がますますぼんやりしてくる。

わかってるよ、俺もだし。でもな、残念ながら俺はお前では勃たな……勃……



「……優也、ここ、」



……なんで勃ってんだよ?!?!



蒼白になった顔面に対して俺の身体はどんどん熱くなっている。ちょ、ちょっと待ってくれ。



「ね、もっと触ってもいい、?」



スバルの上目遣いはかなりクる。目の縁が赤いのも潤んでいるのもヤバい。でも、今はそういう問題ではない。



「いいわけねぇだろバカ……俺から離れろ……今すぐにだ……」

「なんで?……やっぱり僕のことが嫌いなの」

「っ、…………好き」

「じゃあいいよね? 全部受け入れるって言ってくれたもんね」



失言だった。やっぱり自分の気持ちなんか言葉にするもんじゃない!



前言撤回だ、と宣言するより早く、スバルの細い指先が、俺のベルトにかけられる。

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