第13話 ホストが泊まりにくるらしい。
「優也の家って居心地がいいよね~」
「そうか?独身男性一人暮らしの平均値そのものって感じの部屋だと思うけど」
「前にも言わなかったっけ?それがいいんだよ」
スバルは上機嫌だ。いつもスバルの家でくつろいでいるときとなんら変わりないのに、いつも以上に楽しそうに見える。
半日ここで過ごして、ポチの定位置はベッドの上と決まったらしい。不本意だ。スバルが帰った瞬間クローゼットの中に監禁してやる、と、固く誓った。
泊まりにおける俺の不安その1は、スバルに「一緒にお風呂に入ろう」などと提案されることだ。こいつなら、とぼけた顔して言い出しかねない。もちろん却下する言い訳はすでに考えてある。ありきたりだが、風呂が狭いで押し通せばなんとかなるだろう。
表面上はいつもと変わらない仲のいいカップルとして振る舞いつつ、心の中でそんなことを考えていたので、夕飯後にスバルが「僕お風呂入ってこようかなあ。先でいい?」などと言い出したとき、拍子抜けしてしまった。
「あ?ああ、狭いけどゆっくりしてこいよ」
動揺を悟られないようにそう言い、立ち上がってバスタオルを出してやる。
ありがとう、と受け取るスバルの考えていることがまったくわからない。
……わからない?
いやいや、むしろ俺が一緒にお風呂に入りたかったみたいになってないか、これ?
断じて入りたくない!
ならよかったじゃないか、ふつうに。
「じゃあ入ってくるね」
スバルのいつも通りに見える微笑みの奥に隠された(?)本当の気持ちを読み取ろうと目を細めてみるものの、そこにはなにも浮かび上がってこない。いや、そもそもなにも隠されていないのかもしれない。
俺の考えすぎか?
普通に健全なお泊まりをしに来ただけなのだろうか?
っていうか、それすらあいつの作戦の一部でもあるのだろうか?
……わからない。
◆
予想通りというべきか、スバルは風呂が長い。1時間ほども経ち、いい香りの湯気とともに浴室から出てきたホストに向かって、俺は正面切って聞いてみることにした。
「……スバルが急に泊まりなんて言い出すから、俺、一緒に風呂入ろうとか言われるんじゃないかと思って身構えてたんだけど」
「え?!まさか、言えるわけないだろ、そんなこと!!」
一か八かの賭けだ。動揺して尻尾を出すのではないかと思ったが、余計ややこしくなっただけだった。
言えるわけないとはどういうことか?
スバルの方が俺と風呂に入りたくなかったということか?
……いやだから、俺が入りたかったみたいになってるんだって。おかしいだろ。
「……冗談。俺も風呂入ってくる。お前の大好きなスキンケアでもして待っとけ」
「へんな冗談言うなよ~。言われなくてもするし。お風呂、ごゆっくり」
右手をひらりと振って笑うスバルは、芸能雑誌の表紙にいるアイドルみたいな凄まじさだ。イケメンとか美形とかそういうのを超越して、凄まじい。
俺は目を逸らし、自分のバスタオルを掴むとバスルームのドアを開けた。
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